現在、世界は新型コロナウイルスという新たな脅威と戦っているが、ちょうど1年前、スリランカを大規模なテロ事件が襲った。4月21日、スリランカ最大の都市コロンボにある高級ホテルや各地のキリスト教会など計8カ所で同時多発的なテロ事件が発生し、250人以上が死亡、500人以上が負傷した。この事件では、邦人も1人が死亡、4人が負傷したことから、国内でも大きく報じられ、邦人にとってもテロが決して対岸の火事ではないことを改めて示すことになった。9.11以降のテロ事件でも、犠牲者数では最も深刻なレベルだ。
このテロを実行したのは、国内のイスラムコミュニティーの中から過激化したメンバーで構成される組織「ナショナル・タウヒード・ジャマア(NTJ)」で、主犯格だったザフラン・ハシム容疑者(ホテルでの自爆で死亡)は、インド南部やバングラデシュのイスラム国(IS)支持者たちと接点を持ち、また、他の実行犯たちの中にも、シリアへ渡航してISに参戦した者、留学中のオーストラリアでIS関係者と接触した者がいたという。事件は綿密に計画されたもので、実行犯たちは外国人(欧米人)が多く集まる場所を意図的に狙い、キングスバリーホテルやシナモングランデホテル、シャングリラホテルで自爆した。邦人が巻き込まれたシャングリラでの自爆では、朝食時のレストランが狙われた。
スリランカ同時多発テロ事件から1年を迎え、我々はこの事件から何を学ぶことができるだろうか、以下3つのポイントを紹介したい。
デジタルテロの脅威
まず、我々は通信技術のグローバル化によるリスクを考える必要がある。SNSやスマートフォン、5Gなど、我々は日常生活でその利便性を享受しているが、テロの手法も科学技術の発展とともに次々に変化している。グローバル化の進展は利便性だけでなく、リスクもグローバル化させる。
現在の国際テロ情勢を追っていくには、技術革新が如何にテロ組織(テロリスト)に利用されるかを把握しないとリスクの本質は理解できない。
暴力的な過激思想がサイバー空間に溢れ、それが瞬時に国境の壁を貫通する時代においては、いつどこで同様のテロが発生しても不思議ではない。我々は、距離や時差に関係なく、同じような主義・主張を掲げる組織、個人同士が無料で簡単に連絡を取り合える時代に生きている。
同テロの実行犯たちは家族や兄弟という間柄もあったが、インド南部のIS支持者たちとフェイスブックなどSNSを介して接点を持っていた。スリランカ同時多発テロは、当然ながら中東のIS本体が計画から実行まで主導したものではなく、ISの主義主張に共鳴する地元民たちがグループとなって率先したテロである。
ある特定地域のテロ情勢が、他の地域や国のテロ情勢にも波及する時代においては、地域や距離に関係なく、類似性のある内戦や紛争、宗教・民族対立、内政などを同じ土俵で照らし合わせ、そこから共通するリスクを発見することが重要である。
今年1月20日、英ガーディアン紙は、ISの新指導者を顔写真付きで掲載した。バグダディ容疑者が殺害された直後、「アブ・イブラヒム・ハシミ・クラシ」という長い名前で正体不明の人物が後継者として発表されたが、同紙は、それは偽名で、「アミル・モハメド・アブドル・ラーマン・マウリ・サルビ(Amir Mohammed Abdul Rahman al-Mawli al-Salbi)」が新たな後継者だと報じた。現在もこの人物については多くがベールに隠されている。にもかかわらず、バングラデシュやパキスタン、エジプト、ソマリアやナイジェリアなど各地域のIS系組織から同氏に忠誠を誓う声明が次々に発表された。実際、IS本体と地域組織との関係の大部分はイデオロギー上のものだ。しかし、技術革新を駆使し、そういった過激な思想を標榜する組織が各地に存在し、いつどこで芽生えるか分からないということが大きなリスクなのである。