テロによる二次的被害 ロックダウンも
スリランカ同時多発テロから1年となるが、事件後治安当局による掃討作戦が功を奏し、NTJは壊滅的なダメージを受け、現在スリランカ国内ではテロのリスクは高くない。しかし、同事件では身体的損傷や物理的破壊など一次的被害だけでなく、二次的被害も大きくなった。同事件後、コロンボ市内のバスやタクシーなど公共交通機関の運行は大きく乱れ、国際空港のセキュリティ対策も大幅に強化された。また、テロ事件がイスラム過激派による犯行だったことで、国内ではイスラム教徒への風当たりがいっそう強くなり、イスラム教徒が経営する露店や住居が仏教過激派によって襲撃され、イスラム教徒の男性が死亡する事件も発生した。
そして、現在、日本でも全土に緊急事態宣言が出され、世界では不要不急な外出をすると罰金を課されるなど、正に感染症によるロックダウンが大きな問題となっている。しかし、このテロ事件を例に、テロによるロックダウンと感染症によるロックダウンでは大きな違いが1つある。それは、インターネットの遮断だ。世界各地で今起こっているロックダウンは、市民の外出禁止を強制するもので、市街地などは閑散としているが、ネット空間は日常と変わっていない。むしろ、在宅勤務者が増えたことで、ネット空間は以前より多くの人で溢れている。
しかし、スリランカ同時多発テロ後は、外出禁止令が発出されるだけでなく、インターネットへのアクセスが一時的にも遮断された。新型コロナウイルスはサイバー空間を通して感染するものではないが、テロリストはインターネットやSNSを使って連絡を取り合い、テロの計画・実行を進める。よってネットの遮断はテロ防止のため有効な手段となる。しかし、テロによるロックダウンの場合、市民がその後の重要な情報をチェックできないという事態を引き起こし、社会のパニックを招く場合もある。もちろん全てのテロ事件がインターネットの遮断に繋がるわけでないが、反政府デモやクーデター、戦争などの場合でも発生しうる。
重要な情報収集
そして、最後が情報収集の重要性である。1年前のテロ事件では、インド情報当局が事前に重要な情報をスリランカ政府に提供していたが、同政府がテロ情報を共有せず、十分な対策が施されなかったことが被害を拡大させたとも言われる。そのような情報はオープンソースになっておらず、一般人がテロの前兆を察知することは不可能に近かった。
しかし、2013年1月のアルジェリア・イナメナス人質事件、2015年3月のチュニジア・バルドー博物館襲撃事件、2016年7月のバングラデシュ・ダッカレストラン人質事件など、これまで邦人が犠牲となったテロ事件では、それ以前に現地やその周辺地域のテロ情勢が急激に悪化していったという共通点があり、テロの恐れを情報として日々入手することは可能だった。
現在でも、terror alert, terror warning などテロ警戒情報として、日本国内で報道されないだけで、オープンソースとなって入手できるネット情報も多い。例えば、昨年秋以降、インドのニューデリーなどでは政府や軍・警察、またイスラエル権益を狙ったテロの恐れがあるとして幾度も警戒情報が出され、現地メディアはそれを英語で逐次発信していた。また、オーストラリアでもネオナチ組織によるイスラエル、ユダヤ権益を狙ったテロの可能性があるとして繰り返し警戒情報が発信された。「情勢悪化のシグナルを見逃すな」、テロに遭わないためにはこれが極めて重要となる。
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