2025年12月6日(土)

MANGAの道は世界に通ず

2025年12月6日

 1944年9月15日から74日間にわたって続いたパラオ・ペリリュー島の戦いを描いたアニメ映画『ペリリュー -楽園のゲルニカ-』が公開されている。戦後80年や、「開戦の日」から84年を迎える今、観ておきたい作品だ。
 原作である同名漫画は現代の日本の組織システムの良し悪しを見せている。2021年9月23日に掲載した「『ペリリュー』日本式システムの良し悪しを学べ!」を再掲する。

 戦争の悲惨さを訴える漫画、という分野では『はだしのゲン』(中沢啓治、汐文社)が古典的名著だが、近年も『この世界の片隅に』(こうの史代、双葉社)などを筆頭に、定期的に良作が発行されている。

『ペリリュー 楽園のゲルニカ』

 そんな中でこの『ペリリュー 楽園のゲルニカ』(武田一義、平塚柾緒〈太平洋戦争研究会〉、白泉社)が際立っているのは、可愛らしい三頭身のデフォルメ絵によって、戦争という過酷な内容を、徹底的にハードルを下げて読者に表現したところ、だ。これにより、普段はなかなかとっつきづらく、向き合うのが難しい日本の戦争の真実に、比較的容易に目を向けさせることが可能となっている。

 ハッキリいって内容は相当に悲惨である。爆撃を逃れ、「助かって良かったね!」と主人公がいえば、隣にいたはずの友人は頭を打って死んでいる。防空壕にこもっていたら、外から火炎放射で焼き尽くされる。水を汲みにいっただけなのに、銃弾の雨が降り数十人が死ぬ。このような戦場の「リアル」が、デフォルメされた三頭身絵でマイルドに表現され、よどみなく進んでいく。写真などであれば、見れたものではない状況だろうが、人に伝えやすく表現するという「漫画」フォーマットの凄味を、改めて感じられる作品である。

 さて作品の流れとしては、お国のため、重要拠点を守るため、初期には意気揚々とした兵士たちが描かれていくが、徐々に旗色が変わっていく。「どうせ勝てるはずがない」「足手まといは放っておこう」といった発言が増え、ネガティブな空気が醸成されていくのだ。

 読者の皆さんもお分かりのように、ハッキリ言って勝てる戦いではなかったのだ。無謀の極みといえる作戦と、摩耗するだけの持久戦の、犠牲になっていった日本兵の姿が、ありありと描かれながら物語は進行する。

 では、一体どのようにそうした状況が作られたのか? こうした状況に巻き込まれた際、我々はどう考えて動くべきなのか? これらの真実が本作品を通して、戦争の歴史を媒介に教えてくれる。


新着記事

»もっと見る