MANGAの道は世界に通ず

2021年6月18日

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保手濱彰人 (ほてはま・あきひと)

1984年生まれ。東京大学工学部中退。在学中に企業するなどして2014年に株式会社ダブルエルを創業。現在は日本のポップカルチャーコンテンツの国際展開を図ることに注力している。

 物凄く好きなのだ、『鬼滅の刃』(吾峠呼世晴、集英社)が。それも、高く評されるアニメ版ではない。おおもとの純粋な原作漫画版が、私はものすごく好きなのだ。1度目に読み終えた時は、そうでもなかったが、2度目に読み終えた時は、各キャラクターとエピソードへの深い愛着を感じずにはいられなかった。ここから私は生粋の鬼滅オタクとなり、周囲にその良さを吹聴して回ることとなる。

NAOKI NISHIMURA/AFLO

 好きなところを挙げればキリがないが、映画となり空前絶後の大ヒットを飛ばした、「無限列車編」での煉獄さんの生き様ももちろんそうであるし、刀鍛冶の里で、無一郎が人間性を取り戻すシーン。そして何より、無限城編である。

 全編を通して私はここが一番好きなのだが、猗窩座のファンが増えるキッカケとなった、「VS上弦の惨」、胡蝶しのぶの覚悟と、想いを継いだ後継たちの決死の覚悟が伝わってくる「VS上弦の弍」、そして何より 無惨編を除き最大の総力戦となった、「VS上弦の壱」。

 まさか、あのキャラがあんな状態になりながらも、最後まで手を離さなかったことや、「死ぬなら役に立ってから死ね!!」と自分に言い聞かせるシーンは、漫画史上に残る名場面だと思っている。

 上記は、筆者がこの上なく感動したシーンのうちごく一部を切り取ったものに過ぎないが、こうして思い返して記すだけでも、すぐにでも涙が溢れてきそうである。

 それだけ、私は原作漫画版に感動した。さて、「40代以上に刺さる、ビジネスに役立つマンガを」というテーマにも関わらず、なぜこれだけ初めに感想ばかりを描いたのか。

「令和型ヒーロー」

 それには、もちろん訳がある。実は、史上最大クラスのヒットとなったこの「鬼滅」、10〜20代を中心とした現代の若者のモチベーションの源泉を知り、マネジメントに活かしていくのに最適な教科書なのだ。主人公の竈門炭治郎は、特殊な才能があるわけでもない。地元で名の知れた不良で、喧嘩自慢だったわけでもない。優秀な血統の生まれでもなく、超能力を持つキッカケがあったわけでもない。

 強いコンプレックスがあり、強くなりたいと願っていたわけでもなく、あくまで等身大で自然体の、優しい長男、「お兄ちゃん」だ。同氏が、最愛の家族たちを失いながら、唯一残った妹を人間に戻したいというモチベーションから、物語は始まる。

 これが最も重要なポイントの一つであり、旧来の大ヒット少年漫画とは一線を画するものだ。海賊王や、忍者の里のトップといった高い目標があるわけでもない。まだ見ぬ最強の戦士と戦いたいわけでも、全国制覇を目指してバスケットに励むわけでもない。あくまで家族や、身近な人々のために自分を犠牲にするところから物語はスタートしていく。

 最終的に、最終23巻を終えるまでに、本作品はおびただしい数の、主要なキャラクターが死を迎え、鬼殺隊という組織が一丸となって、唯一絶対の目標を達成していくことになる。

 その中で炭治郎も、決して驕ることなく、自分には才能はないけれども、人のため、みんなのために自分のできることをできる限りやる、と覚悟した上で、その優しさ、寛容さ、暖かさを存分に振りまき、周囲の人の心を温めながら物語は進展していく。

 主人公には、凝り固まった価値観や、個人のビジョンを優先するための自分中心な行動は1ミリも見られない。まさに最新の現代型ヒーロー、「令和型ヒーロー」の象徴といえる。

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