2024年4月25日(木)

MANGAの道は世界に通ず

2021年6月18日

今の10〜20代の「普通」とは?

 戦後に高度経済成長を迎えた日本は、頑張れば出世や、より良い暮らしが待っているという未来像のもとに、ひたすら、満たされるための努力を個々が行い続けていた。「24時間働けますか」という、今なら絶対に批判の的になるだろうテレビCMのキャッチコピーが流れていたのは、バブルの残り香のするわずか30年前の話である。

 物質の足りていない時代には、夏の暑さを凌ぐエアコンが欲しい、移動の足となり、格好も付けられる高級車が欲しい等々、いくらでも欲しいものがある、満たされていない世代であった。しかし、バブル後に生まれた今の10〜20代の若者たちは、生まれた時からほぼ全てが揃っていた。夏の暑さや冬の寒さを凌ぐエアコンはもちろんのこと、食うにも寝るにも困らず、満たされたまま育つのである。

 さらに、出世しようにも上が埋まっているため頑張りようもなく、努力した分だけ返ってくるという希望は、バブル崩壊を経験した両親たちからとても感じられるものではなかったのである。これが、今後の経済の中心となっていく、今の10〜20代の「普通」である。

 つまり、全てが満たされており、頑張ることで手に入るものもなく、欲求の乏しい今の若者は、等身大かつ自然体。この抑圧されていない、自然体な世代を相手にせねばらないのが、今後のマネジメント職の現実なのだ。

 だからこそ、炭治郎という、抑圧のない自然体の主人公がぶっ刺さったのだ。私を含めて、現代の多くの人の心を掴んだのはこれが理由だ。

 藤井聡太、羽生結弦、錦織圭などなど、今の10〜20代では、自然体のまま、好きなことを追求して世界で活躍する若者がどんどん増えてきている。

 それを漫画に置き換えたのが本作品だといえるだろう。何かを手に入れるための競走をしてきたわけでもない世代のため、人と争うことが好きでもなく、蹴落とすなどもってのほか。むしろ、個々の自然体を認め、お互い違ってもそれはそれでいいじゃん、という許容する度量を持つ。

 だからこそ、例えばお笑いの世界でも、「お前それはおかしいだろ!」と笑うことに違和感を持つのだ。一昨年末のM-1グランプリから驚異的なヒットをした、「ぺこぱ」のお笑いなど、まさに典型的にそこに刺さった事例である(人のボケを否定せず、貶めず、「そういうこともあるよね!」と徹底した「肯定」をする文脈なのだ)。

 ちなみに漫画文脈でいうと、いま週刊少年ジャンプで連載している『僕とロボコ』(宮崎周平、集英社)もまさに同じ文脈で、オススメである。否定せず、誰も不幸にしない優しいギャグマンガである。

 つまりは、こういう世代からすると、「頑張ればこれだけ素晴らしい未来が待っている!」「良い車も買えるし家も買える!出世して、夜の店で豪遊することも可能だ!」といったアジテーションは全く通じない。

 なぜ、わざわざそこまで面倒なことをしてまで頑張らねばならないのか、全く通じないのだ。自然に生きた上で、これって面白いよね、こうするのが「自然」だよね、と導くことが肝要だ。みんながそうしているのだから自分もそうする。人が困っているのだから手を差し伸べる。

 「組織のビジョンがこうだから」とかではなく、自然と社会に向かうためのモチベーションを深堀りしていくことが重要なのだ。今回はここまで、何となく現代の若者感覚の参考にしていただきながら、今後、別の題材でより踏み込んだ内容を扱おうと思う。

  
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