MANGAの道は世界に通ず

2021年7月3日

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保手濱彰人 (ほてはま・あきひと)

1984年生まれ。東京大学工学部中退。在学中に企業するなどして2014年に株式会社ダブルエルを創業。現在は日本のポップカルチャーコンテンツの国際展開を図ることに注力している。

『キングダム』

 現在37歳となる私だが、この世代以下になるとオタクへの偏見も薄れ、多くの人が漫画を趣味だと公言してはばからない。私自身も、漫画で育ち漫画に教育を受け、漫画によって今の自分が作られたといって過言ではない。

 そんな時代背景もあり、20〜30代のベンチャー企業経営者に、好きな漫画は何かと聞くとすぐに答えが返ってくるし、「これがバイブルです!」とまで力強く言われることも多いのだ。

 経営者はそこで、10〜15年前なら『サンクチュアリ』(史村翔原作、池上遼一作画、小学館)と答える人が多かった。それがここ10年で、一気に『キングダム』(原泰久、集英社)と答える人が増えた印象である。ご多分に漏れず、私もキングダムはどハマりした漫画の一つだ。

 高みを目指し、最終的に中華を統一する、という象徴的な成功ストーリーは、日本を良い意味でひっくり返すというサンクチュアリの下剋上の物語と同様、志の高い多くの経営者層の心を打つのだ。

 しかしここで、私は「ビジネスリーダーに非常に参考になる有用書」としてのキングダムの価値を挙げたい。兵法のケーススタディとして、様々な場面で参考になる内容が描かれているのだ。

孫氏の兵法の奥深さ

 誰しも一度は聞いたことのある、孫氏の兵法。しかし現代に伝わっている孫氏の兵法は、深みのある本質的な部分が相当に削減され、かなり浅くしか理解されず、使われていない。これは、名前だけ先行してしまったランチェスター戦略なども同様といえる。

 ビジネス理論として頒布するには、浅く分かりやすいところだけ切り取り流布するほうが効率的なので、ビジネス書に載り、セミナーで論壇される時点でかなりの、大衆向けの分かりやすいところのみに切り取られているのだ。

 本来の孫氏の兵法の奥深さと、その有用性・汎用性を理解するには、原本をしっかりと読み込むことと、それに関連した事例、つまり中国史をつぶさに見ていくことだ。古代史や王朝の歴史を深堀りしていくと、組織や人事に直結する、非常に参考になる内容が多い。

 例えば、である。「遠くの国と組め」という鉄則があるが、これは、M&Aするなら領域の近しい会社でなく、むしろ全然違う業種の会社を買収する。それにより、自他がミックスすることで、新境地が開ける。事業提携でも同じである。そのようなことがいえる。

 これは、キングダムでいうと45巻、未来の始皇帝である秦の大王・政が、秦を含む「戦国七雄」の七カ国のうち、もっとも遠くに所在していた、王と会談する名シーンで見て取ることができる。結果的に、この「遠い国との提携」が果たされることで、58〜59巻の鄴攻略編で、絶体絶命のピンチを斉に救われることになるわけだ。

 考えてみると、筆者が最も好きな「合従軍・函谷関編」でも、最後にピンチを救ったのは山の民という、もっとも「文化的に遠い」民族であり、だからこそ、異文化だから提供できる別の付加価値があり、その化学反応が計り知れないということなのだろう(李牧という奇才を持ってして、この助っ人を読めなかったのは、「そんなことあるはずない」という、絶対的に遠い相手だから導けたことだからだ)。

 上記それぞれ、キングダム好きならいずれも感嘆の声を上げずには読まれない名シーンなので、未読の方はぜひ目を通していただきたいものだ。話を戻して、これらからいえることは、常に「組むなら距離の遠い、一般的にはハードルの高い相手と」ということだ。

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