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2021年4月2日

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高原明生 (たかはら・あきお)

東京大学公共政策大学院教授

専門は現代中国政治。1981年東京大学法学部卒業。88年サセックス大学博士。立教大学法学部教授等を経て2005年より東京大学法学部教授。18~20年に同公共政策大学院院長。著書は『開発主義の時代へ 1972-2014』(共著、岩波書店)等多数。

習近平国家主席の権威と権力のシンボル「一帯一路」
(KYODO NEWS/GETTYIMAGES)

 レトリックはともかく、実際のところ中国外交にとって一番重要なのは対米関係の安定だ。安全保障上も経済上も、唯一の超大国を敵に回せば厳しい状況に立たされることは早くから理解されていた。中国の有識者が、「対米関係の安定は中国のすべての安定の基礎だ」と語るゆえんである。

 米トランプ前政権の1年目は、無難に過ぎた。北朝鮮への米国の厳しい対応に、中国が呼応したことがその大きな要因だった。ところが、2017年末から米国は中国を最大の対外脅威だと見定めた。安全保障にかかわる高度技術の輸出を規制し、中国からの輸入品に高関税をかけた。強気の姿勢を崩さないものの、中国が受けた打撃は決して軽微なものだとは言えない。

 バイデン政権の下で対中政策は変化するだろうか。バイデン氏は必要に応じて中国との協力も辞さないだろう。特に重視する気候変動問題では中国との協力が不可避となる。他方、尖閣諸島が日米安保条約の対象となることはすでに言及済みだ。台湾防衛へのコミットメントや南シナ海での「航行の自由作戦」も継続するだろう。中国側の協力の呼びかけにもかかわらず、中国を戦略的な競争相手とする米政権の厳しい姿勢に変化はなさそうだ。

一帯一路にあった
戦略的な狙い

 太平洋を跨いだ対米関係が悪化すると、中国は日本やドイツなど、ユーラシアの方を向く。それが中国外交の昔からのパターンだ。習近平政権は当初、米オバマ政権に対し、協力や相互尊重をその内容とする新型大国関係の樹立を呼びかけた。オバマ氏は中国をパートナーとして地球規模の問題に対応しようと考え、この呼びかけを受け入れた。

 しかし、南シナ海への海洋進出、尖閣諸島をめぐる日本との衝突や対米サイバー攻撃などにより、オバマ政権は中国への対抗姿勢を強め、新型大国関係を拒絶する。すると習近平氏は対米関係の悪化を一因として13年より一帯一路を唱え始め、14年には安倍晋三首相との間で初めての日中首脳会談に応じた。そして15年の外交の最重点は一帯一路だと、王毅外相が述べるにいたった。

 中国政府の説明によれば、一帯一路のポイントはアジアとヨーロッパをインフラ建設によって連結し、その中間地域の発展を助けることだ。言うまでもなく、中国企業の対外投資は一帯一路に始まるわけではない。例えば、それ以前より中国企業や中国人のアフリカ進出は話題になっていた。その目的は、資源、市場、そして政治的な影響力、この三つの獲得にほかならない。

 それに加え、一帯一路には国際政治経済上の戦略的な狙いがこめられていた部分もある。中国の東、つまり太平洋方面に進出していけば、日米や南シナ海を囲む東南アジアの国々と衝突する。当時、オバマ氏は環太平洋パートナーシップ協定(TPP)を推進していた。「私たちがルールを決めなければならない、さもなければ中国が決めてしまうぞ」というのが彼の決め文句だった。それを受け、中国には、逆を向き、西に新しい秩序を構築しようと考えた人々もいた。

 さらには、当時の中国には対外投資を推進する国内的な事情もあった。08年の米国発金融危機から中国がいち早く脱出したのは、4兆元(約64兆円)に及ぶと言われた内需拡大策による。それによって高速鉄道網や高速道路網は目覚ましく発達し、内陸を含む多くの都市では高層ビルが乱立した。しかし、そうした建設ラッシュによって国内の市場は飽和し、過剰となった建設能力や生産能力の新たな行き場が求められたのだ。

2008年の米国発金融危機から脱出するため、中国国内では高速鉄道網や高速道路網の建設ラッシュが起こった (BENJAMIN LOWY/GETTYIMAGES)

 習近平氏にとっても、「21世紀のシルクロード」の地域は、そうした政策課題を解決する先として魅力的に見えた。一帯一路は権力基盤を固めた彼のペットプロジェクトと化し、一帯一路にかかわると称すれば、建設事業であろうと研究プロジェクトであろうと予算が付くような状況が現れた。

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