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2021年3月29日

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高口康太 (たかぐち・こうた)

ジャーナリスト

1976年生まれ。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。中国・南開大学に留学後、ジャーナリストとして活動。著書に『幸福な監視国家・中国』(共著、NHK出版)等多数。千葉大学客員准教授を兼務

2020年の中国最大のショッピングセール「独身の日」では1日で4982億元(約7兆9200億円)の流通総額を記録した (BLOOMBERG/GETTYIMAGES)

 「われわれアリババグループは当局の調査に積極的に協力しております」。中国EC(電子商取引)大手アリババグループ(以下、アリババ)は2月3日、第3四半期業績発表会を開催した。席上、張勇(ダニエル・チャン)CEOは金融関連企業であるアント・グループの新規株式公開(IPO)延期と独占禁止法違反問題について言及した。

 アリババは昨秋以来、次々と〝障害〟に直面している。アント・グループは2020年11月4日にIPOを予定していたが、当局の指導により前日になって急転直下の延期が決まった。さらに12月24日には独占禁止法違反容疑で本社の立ち入り調査が実施された。

 創業者の馬雲(ジャック・マー)が20年10月中旬以来、公の場から姿を消したこともあり、中国政府とアリババの対立が深刻化しているとの憶測も広がっている。アリババといえば、新型コロナウイルス感染症対策の接触追跡アプリの開発を主導するなど、政府とも親密な関係を築いている大企業とみられてきた。いったい、何が起きているのか。

中国政府とアリババの
対立が深刻化

 「プラットフォーム企業規制は、欧州を手始めに、米日へ広がり世界的な潮流となっている。独占を規制しなければ、中小事業者やメディア、消費者の利益が損なわれるという懸念がある」

 中国経済に詳しい、学習院大学経済学部の渡邉真理子教授はこう指摘する。米司法省は20年10月にグーグルを独占禁止法違反で提訴したが、その際にローゼン司法副長官(当時)は「競争を促さなければ、技術革新に乗り遅れる。グーグルに続く企業を米国が生み出せなくなる」と発言している。米中は似たような問題意識を抱えている。

 中国のプラットフォーム企業規制は今年、さらに強化されていく見通しだ。20年12月に開催された中国共産党中央経済工作会議では、21年の重点目標として「独占禁止の強化と資本の無秩序な拡大防止」が盛り込まれ、「プラットフォーム企業による独占認定、データ収集と使用の管理」について規制する方針が示された。アリババだけではなく、テンセントなど他のプラットフォーム企業も含めた、総合的な規制を導入しようとしている。

 中国における主要ITサービスのシェアを見ると、アリババとライバルのテンセントの二強による寡占体制がはっきりと浮かび上がる(下図参照)。

   中国当局はプラットフォーム企業に対する規制を強める
①アリババ・グループやテンセントが「寡占」する中国ITサービス  

   左図:(注)2020年第1四半期 (出所)中国の研究機関・前瞻産業研究院資料を基に筆者作成
右図:(注)2019年 (出所)iiMedia Research資料を基に筆者作成 写真を拡大


②中国の「ITプラットフォーマーに対する
独占禁止ガイドライン」が対象とする主な違反行為
(出所)国家市場監督管理総局「プラットフォーム経済分野に関する独占禁止ガイドライン」
(2021年2月7日制定・公表・施行)を基に筆者作成 写真を拡大

 中国のプラットフォーム企業の特徴は、複数の分野でサービスを展開する点だ。アリババ、テンセントはともにモバイル決済・EC・クラウドなどの事業分野を抱える。一方、米国のプラットフォーム企業はソーシャルメディアのフェイスブック、EC・クラウドのアマゾンなど、一部事業分野に特化して世界にサービス展開している。中国のケースではほとんどの売り上げを中国に集中させているとともに、より広い事業範囲を持つ。いわばプラットフォーム企業が単体で完結する経済圏を構築しており、他のプラットフォーム経済圏と対立する構図となる。

 その弊害が象徴的に表れているのがテンセントのメッセージアプリ「ウィーチャット」のリンク禁止措置だ。アリババのネットショップのリンクは送信できないようにされている。テンセントは消費者の安全のためと説明するが、自社経済圏からの排除が目的とみるのが普通だろう。同様の措置を受けているのが、バイトダンスの動画アプリ「ティックトック」だ。2月、バイトダンスはこれが独占禁止法違反にあたるとして、テンセントを提訴した。

 「中国プラットフォーム企業は、消費者にリーチする部分は出店者や投稿者、サプライヤーへ任せる姿勢が強く、垂直的には開放的だが、他社サービスの排除など水平的には閉鎖的な姿勢が目立つ」(渡邉教授)

 もう一つ、「水平的な閉鎖」の代表例として知られるのが「二選一」(二者択一)だ。毎年11月11日に開催される中国最大のショッピングセール「独身の日」で、アリババは他社のセールへの不参加を参加条件にしている。

 「実際、そうした条件はありました。ただ商品ごとの対応だったため、アリババのセールに出展する商品と、他社セールに出展する商品とを分けて対応していました」

 2年前まで日系美容家電メーカーの中国市場責任者を務め、現在は日本化粧品検定協会の中国圏総代理を務める美果の李雨儒CEOはこう振り返る。当時は、さまざまな〝無理難題〟をこなす日々だったという。

 「2週間後までに女優を起用した広告を作ってほしい、有名デザイナーとのコラボ商品を作ってほしい、プラットフォームの宣伝になるような記事をメディアに掲載してほしい……。アリババの担当者からはいろんな要求が降りかかってきました。社内では急には対応できないとの反発もありましたが、なんとか押し切って要求に応え続けました。これが販売額を伸ばせた原動力となりました」(同)

 〝無理難題〟を断っても、ネットモールから締め出されるわけではない。しかし、ただ出店しているだけでは膨大な商品数に埋もれてしまい、売り上げは見込めない。集客リソースを獲得するためにはプラットフォーム企業との親密な関係が不可欠だという。

 「アリババのECアプリ・『淘宝』(タオバオ)のトップ画面にある広告バナーは絶大な広告効果を持ちますが、お金だけではその枠は買えません。担当者との関係を構築しておくと、『枠が空いたけどどうする?』とオファーをもらえることもあります」(同)

 ようやく獲得しても、より強いリソースを持つ企業が割り込みで広告を出稿し、掲載日が遅れることもあったという。プラットフォーム企業が強大な集客導線を擁するだけに力関係は明らか。こうしたルールに従わなければ中国市場で勝つことはできないという。

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