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2021年7月1日

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加茂具樹 (かも・ともき)

慶應義塾大学総合政策学部教授

専門は現代中国政治外交。1995年慶應義塾大学総合政策学部卒業。同校法学部准教授等を経て2015年4月から同校総合政策学部教授に。16年10月、外務省に転籍して在香港日本国総領事館領事を務め、18年10月に復職。編著に『現代中国の政治制度』(慶應義塾大学出版会)等。
 

習指導部は「経済の高度成長の実現」と「社会の長期的安定の実現」の〝2つの奇跡〟実現を強調するが…… (VCG/GETTYIMAGES)
 中国共産党によれば今年7月で結党100年を迎える。第1回の党大会時は50人程度だった共産党員も、2019年には9200万人にまで増加。党は軍事パレードこそ行わないものの、祝賀大会を盛大に開催すると表明している。
 
 もう1つの100年(建国)を見据え、中国共産党は習近平氏の悲願である「偉大なる復興の夢」実現に向けた動きを内外に強調するだろう。だがこうした一連の中国共産党による喧伝は、あくまで中国自身の歴史観や統治の考え方に基づくものだ。共産党が言うところの100年のレンズを通して見ていては、彼らの論理に一方的に引きこまれてしまう。〝表〟の姿にとらわれず、内面に抱えた課題を冷静に捉える必要がある。


  今年4月、日米首脳共同声明に対する中国の言説は厳しかった。中国は、この声明を内政干渉と批判し、「一切の必要な措置を取る」と述べた。しかし、この批判は行動を伴わなかった。発言したのは在日、在米中国大使館や中国外務省の報道官であって、(中国外交担当トップの)楊潔篪(ようけつち)共産党中央政治局委員や王毅外相は反応しなかった。

 また6月に米国上院の超党派で組織された議員団が、米軍機に搭乗して台湾を訪問して蔡英文総統と会談し、また新型コロナウイルスのワクチン提供を表明した。これに対して中国外交部報道官は、議員団の台湾訪問を「一つの中国」原則に違反すると抗議したものの、米軍機が台湾に着陸したことについては問題提起しなかった。

 東シナ海の海洋秩序をめぐる中国の実際の行動は強硬だ。しかし、中国外交の全体を見渡すと、強硬性は選択的ともいえる。そこには、国際政治の力のバランスに現実的に向き合おうとする中国共産党の国際政治観を見ることができる。同時に、自国の国内情勢を踏まえた慎重さも表れている。この理屈を理解することが、今後の共産党政治を読み解く際のポイントになる。

 中国の歴代指導部が掲げてきた「改革開放」路線とは、経済発展に貢献する国内環境と国際環境の構築である。この外交に関わる課題は、既存の国際秩序にどう向き合うかにあった。指導部は、それを打ち破るのではなく、米国との衝突を避け、国際秩序と協調して、自国の発展のために利用するべきだという方針を選択した。例えば、その実際の行動が世界貿易機関(WTO)加盟に向けた取り組みであった。

 もちろん、当時の中国外交には「協調」だけではなく「自主」もあった。例えば、胡錦濤指導部が提起した国際秩序観である「和諧世界」論には、国際社会の多様性、すなわち歴史文化や社会制度、発展モデルの多様性の主張があった。そこには「自由な民主主義こそが、政体の既定値としての形態だ」とする、いわゆる政治学者フランシス・フクヤマの「歴史の終わり」論への反論が織り込まれていたといってよい。

 一方習近平指導部が誕生した後、中国外交の主旋律は「協調と自主」から、「協調と強制」へと変化した。習指導部は「大国」外交を唱え、経済発展のためには平和的な発展が重要だと訴えつつも、そのために主権や領土、核心的利益を譲歩しないという方針を示し、自己主張する外交を展開してきた。

「大国」意識を強める習指導部は、「大国」を形作る「世界の平和をめぐる問題に影響を与える決定的なパワー」を強化するため「構造的パワー」の拡大を追求してきた。既存の国際秩序への適応というより、自らの要求を既存の国際秩序を形作る制度のなかに埋め込み、主動的に自らの経済発展に有利な国際環境を整えようとしてきた。

 こうして、中国外交に「強制」性が強く表れるようになったのはなぜか。一つの要因は、経済成長とともに国力が増大し、目的達成のために選択できる外交手段が増えたからであろう。それは軍事力の増大だけではない。

 中国は、世界第二位の経済大国という影響力に支えられて、国際社会における存在感を飛躍的に高めている。世界銀行や国際通貨基金(IMF)といった既存の国際経済秩序を形作ってきた制度において、議題設定権や議決権の比率を高め、一帯一路やアジアインフラ投資銀行(AIIB)といった新しい制度を創設し、インターネットや深海底、宇宙といった新しい領域では活発に行動してきた。

 経済発展のために必要な国際環境を構築するために、中国は「構造的パワー」の拡大に努めている。昨年末に習近平国家主席が提起した、環太平洋パートナーシップ協定(CPTPP)への加盟の意思を示したのも、そうした考えを踏まえたものといってよい。

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