2022年8月10日(水)

インドから見た世界のリアル

2022年1月6日

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長尾 賢 (ながお・さとる)

米ハドソン研究所 研究員

学習院大学大学院にて博士号(政治学)取得。米戦略国際問題研究所(CSIS)客員研究員などを経て2017年から現職。日本戦略研究フォーラム上席研究員、スリランカ国家安全保障研究所上級研究員、未来工学研究所特別研究員なども兼任。著書に『検証 インドの軍事戦略』(ミネルヴァ書房)。

「防御ばかり」からの転換

 インド陸軍第17軍団も同じような目的をもつ。この部隊は9万人の大規模部隊(陸上自衛隊は全体で15万人)で、インド空軍の大型・中型輸送機、大型輸送ヘリコプター、攻撃ヘリコプターの支援を受けて、空中機動で移動し、中国側のチベットや新疆ウイグル自治区へ攻撃にできる能力を有する。21年に編成が終わり、作戦可能な状態になった。

インド陸軍の師団司令部の位置 (注)赤色の⇒が第17軍団 ※筆者作成 写真を拡大

 このような戦闘機、ミサイル、第17軍団の整備は、インドの新しい傾向を示している。これまでインドは、中国やパキスタンからの攻撃に対して、防御ばかり考えてきた。しかし、今、インドは、防御だけでは守れないと考え始め、攻撃能力を強化し始めている。

 例えば、パキスタン国内にインドでテロ活動する組織の拠点がある。インドは、このような拠点を、16年に特殊部隊で襲撃、19年には空爆した。中国に対しても同様の対策を考えているのだ。

 印中国境地帯の中国側、チベットは、標高5000メートルの山岳地帯である。限られた道路、橋、トンネル、鉄道、空港といった重要インフラなしには軍事作戦ができない。インドの戦闘機やミサイルも、第17軍団も、それら重要インフラを重点的に攻撃するために整備しているものである。まさに中国側の弱点を効果的に狙う作戦なのである。

インド軍の大再編計画と直面する問題点

 しかし、このような攻撃を伴う作戦は、防御よりもさらに難しいものだ。陸海空軍がより適時適切連携していなければならない。外交交渉と軍事的攻撃のタイミングについても、緊密に連携していなければならない。そこでインド軍は、23年を目標に、組織そのものの大改革を始めている。具体的には、米国方式の統合軍の創設である。

 統合軍とは何か。伝統的な軍隊は、陸軍、海軍、空軍にそれぞれ部隊があり、明確に分かれている。陸軍の指揮官は陸軍の部隊を指揮し、空軍の部隊は空軍を指揮する。だから、もし陸軍の指揮官は、空軍の支援を受けたいと思ったら、空軍の指揮官に連絡しなければならない。しかし、この方法だと、毎度、陸軍の指揮官と空軍の指揮官が調整しなければならず、時間がかかるから、非効率である。

 そこで考え出されたシステムが、統合軍のシステムである。統合軍を創設し、陸海空軍の必要な部隊をまとめて統合軍の指揮下にいれ、一元化した指揮系統で動くのである。米国軍の場合は、インド太平洋地域の部隊は、「インド太平洋軍」という名前の統合軍の下で作戦行動をとる。

 インドの場合、中国対策を担う統合軍を2つ、パキスタン対策を担う統合軍も1~2つ、インド洋を担当する統合軍(海洋戦域コマンド)、防空作戦を担う統合軍(防空コマンド)、そして、宇宙作戦を担う統合軍(宇宙コマンド)、合計で5~7の統合軍を創設する予定だ。この計画が実現すれば、インド軍は適時適切な軍事作戦を展開し、中国相手に攻撃能力を示すことができるようになるだろう。

陸海空の調整を担っていた国防参謀長

 ただ、この構想実現には超えなければならない多くの問題がある。特に、陸海空軍の調整は大変な作業だ。陸海空軍とも、戦場では主役になりたい。しかし、もし中国向けの統合軍が創設されて、大規模な陸軍と小規模な空軍が割り当てられた場合、陸軍が主役で空軍が脇役、といった力関係になるかもしれない。あくまで、そうなるかもしれないという不安でしかないのであるが、そういった不安は、うまく調整しないと組織同士の連携がとれないのである。

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