中国の台湾侵攻作戦は、宇宙・サイバー・電磁波攻撃による情報システム、早期警戒・ミサイル防空態勢の弱体化→ミサイル攻撃による防空態勢の物理的な破壊→海上・航空優勢の確保・機雷敷設などによる封鎖網の確立→着上陸作戦の実施、というように逐次的に設計されており、いずれかの段階で作戦が行き詰まると、作戦全体が頓挫するという問題を抱えている。つまり、最初のミサイル攻撃に成功したとしても、その後台湾や東シナ海周辺での海上・航空優勢の確保が難しいとなれば、そもそも中国側から攻撃を始める誘因自体が低下するはずである。
日米は核兵器も含めた戦略策定を
次期防衛大綱・中期防の策定にあたって、日本政府は陸上自衛隊に中距離弾道ミサイル部隊を編成し、今後5年以内に実戦配備することを真剣に検討すべきである。ミサイルの長射程化は、ペイロードの増加に伴ってより破壊力の大きな(通常)弾頭の搭載を可能にするだけでなく、配備地点の柔軟性を高めることとなる。
例えば、射程2000キロメートル級のMRBMであれば、ランチャーを九州にも配備した場合でも、中国沿岸から約1000キロメートル以内に位置する航空基地を13分以内に攻撃することが可能だ。一方、射程4000キロメートル級のIRBMであれば、ランチャーを北海道の演習場などに配備した場合でも、約20分で同様の目標を攻撃することができる。2000キロメートル遠方から発射することで生じる約7分の時間差は、固定目標を攻撃する上ではほとんど問題にならない。
同様の効果は、米陸軍が開発を進めている射程約2800キロメートルの極超音速滑空ミサイル=LRHW(Long-Range Hypersonic Weapon)によっても得ることができる。米国は23年末までにLRHWのプロトタイプの配備を開始する予定であるが、中国は日米のような広域のミッドコースミサイル防衛システムの配備が進んでいないことから、通常の弾道ミサイルであっても有効な打撃を与えることは可能である。したがって、中距離弾道ミサイルと極超音速滑空ミサイルであれば、開発・配備・量産までにかかる期間が短い方を優先して取得・配備すべきであろう。
これらの新たな打撃力が中国の台湾に対する誘惑を思いとどまらせ、地域の安定化に寄与するためには、米国がより高次――核レベル――での優越を維持し、中国が「核の影」をちらつかせてエスカレーション管理の主導権を奪おうとするのを阻止する努力も必要だ。だが、日米が配備する地上発射型の中距離ミサイルに、核弾頭の搭載を検討する必要はない(米国が開発している中距離ミサイルは全て通常弾頭用であり、そのことは国防長官を含む高官らによって何度も強調されている)。
死活的に重要な米国の核戦力は、危機における安定性を悪化させないためにも、非脆弱な環境で運用されるべきであり、その役割は今後もSLBMが担い続けることが最適だからだ。この点において、18年以降に導入された低出力核SLBMは、即時対応可能な事実上の戦域核戦力としてエスカレーション・ラダーの隙間を埋める重要な役割を果たしている。
先の日米2プラス2共同発表において、米国は「核を含むあらゆる種類の能力を用いた日米安全保障条約の下での日本の防衛に対する揺るぎないコミットメントを改めて表明」した上で、両国は「米国の拡大抑止が信頼でき、強靱なものであり続けることを確保することの決定的な重要性を確認」した。類似の文言は、過去の日米共同文書にも盛り込まれてはいるものの、核の役割低減を謳うバイデン政権からこのような言質をとったことには政治的な重要性がある。
2プラス2の冒頭発言において、ロイド・オースティン国防長官が「統合的抑止力」の重要性に言及したように、今日必要な抑止力のあり方を考えるにあたって、核とそれ以外の要素を切り分けて議論することはできなくなっている。今、日米に必要なのは、グレーゾーンでの抑止から核エスカレーションの管理までを一体のものとして捉えた、真に統合的な同盟の抑止戦略に他ならない。
この文脈において、日本が打撃力を持つことは、核を含む日米双方の能力をいつ、どのように、どの目標に対して使用するかに関する作戦計画立案とその実行プロセスに、日本がより主体的に関わるためにも必要不可欠と言えるだろう。
台湾有事とは日本有事である——。日本は戦後、米国に全てを委ねて安住してきたが、もういい加減、空想的平和主義から決別し、現実味を帯びてきた台湾有事に備えなければならない。
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