リトアニアのナウセーダ大統領が、6月23日付のワシントン・ポスト紙に寄稿し、北大西洋条約機構(NATO)は防衛体制を強化すべきだ、プーチンがウクライナで勝てばロシアの脅威はバルト三国に迫って来ると述べている。
この寄稿記事は、6月29~30日のNATO首脳会議を控え、バルト三国の対露危機意識を強調したものである。ナウセーダは、
①NATOはロシアを明白な長期的脅威だと明確に規定すべきである。
②目下の「緊急増援」部隊展開政策に頼ることはできない、旅団規模の兵力をバルト三国に「永久」展開すべきだ。
③ウクライナの戦争勝利が必要、ロシアの脅威はバルト三国に近づいてくる。
④NATOはオープン・ドア政策を維持すべき、スウェーデンとフィンランドのNATO加盟は大きなインパクトを持つ。
等と主張する。
この論説から、バルト三国の安保環境の厳しさや主張がよく分かる。欧州諸国の内、ロシアに強硬な姿勢を維持するのは、英国の他バルト三国とポーランドである。この記事も対露慎重姿勢をとる仏独等を暗に強く批判する。
バルト三国、特にリトアニアが強い危機意識を持つ背景には、厳然たる地政学的理由がある。バルト三国は、冷戦時代はソ連の一部で、1991年にソ連の崩壊を受けて独立し、2004年にNATOに加盟した。現在エストニアはロシアと、ラトビアはロシアとベラルーシと、リトアニアはロシア(飛び地カリーニングラード。バルト艦隊の拠点、核もあると見られる)、ベラルーシと国境を接する。
特に、カリーニングラードとベラルーシに挟まれるリトアニア・ポーランド国境は、スヴァルキ・ギャップ(回廊)と呼ばれる軍事上のチョーク・ポイントである(国境の長さは約60マイル。「NATOのアキレス腱」)。この国境地帯には、バルト三国と欧州を結ぶ二つの高速道路とひとつの鉄道が走り、三国の生命線になっている。
今、三国の住民は、シェンゲン協定により、この回廊を通じ他の欧州諸国と自由に往来できる。この回廊はロシアが攻撃すれば1週間で制圧されると言われる。そうなればバルト三国は陸上孤立する。これは正にロシアとNATOの戦争になる。
バルト三国は、NATO軍の永久展開を求めている。ドイツ、オランダなど他のNATO加盟国は慎重である。ナウセーダ大統領は、目下の「強化された前方プレゼンス」政策では不十分だと言う。