2022年10月6日(木)

デジタル時代の経営・安全保障学

2022年2月2日

»著者プロフィール
著者
閉じる

大澤 淳 (おおさわ・じゅん)

中曽根康弘世界平和研究所 主任研究員

慶應義塾大学法学部卒、同大学院修士課程修了。外務省外交政策調査員、米ブルッキングス研究所客員研究員、内閣官房国家安全保障局参事官補佐、同局シニアフェローなどを経て現職。鹿島平和研究所理事を兼務。専門は国際政治学(戦略評価、サイバー安全保障)。

 バルト三国の一番北に位置するエストニアは、森と湖が国土の大半を占める平坦な国である。人口約132万人、国土面積は約4万5000平方キロメートルで、例えるなら、関東地方と新潟県を合わせた広さの土地に、さいたま市と同じ人口が暮らしている。

 1918年にロシアから独立したが、40年にソビエト連邦に占領・編入された苦難の歴史がある。89年の東欧の民主化の波をうけ、91年に独立を回復した。

「電子立国」エストニアの街並みは中世の面影を強く残す(筆者撮影)

 エストニアの首都タリンは、写真のように中世ハンザ都市の面影を強く残していて、観光で訪れる日本人が持つ第一印象は恐らく、「おとぎ話の舞台のような北欧」というものであろう。世界遺産に登録されているタリンの旧市街を歩けば、ドイツ騎士団領時代に建設された丸い塔が特徴のヴィル門や、ロシア統治時代に建設されたタマネギ型のドームが印象的なアレクサンドル・ネフスキー大聖堂があり、大国に翻弄されてきたこの国の歴史を感じることができる。

道路にパーキング・メーターがない理由

 街の中を一見しただけでは、この小国エストニアが、世界最先端の「電子立国」であることを見逃してしまうだろう。だが、街路で目をこらして見ると、世界の大都市によくあるパーキング・メーターがないことに気がつく。

 駐車スペースと思われる道端には、駐車区域コードと駐車料金が記載されたPのマークの看板が設置されている。看板には、「m-pakimine」すなわち「モバイル・パーキング」との表示がある。

 駐車するドライバーは、スマホから位置情報アプリかショートメッセージサービス(SMS)で区域コードを送信して駐車登録を行い、出発する際に駐車登録を解除する。小銭を取り出して料金を支払う必要はなく、月末に携帯電話料金と共に利用者の銀行口座から引き落とされる。m-パーキングでは、利用者の本人確認、車両登録情報、位置情報、携帯電話情報、銀行口座情報のデータが、瞬時に行政機関や通信事業者のサーバー間で交換されている。

北欧の「電子立国」エストニア

 エストニアは、「e-Estonia」を掲げ、世界で最先端の「電子立国」を実現している。電子サービスは、m-パーキング以外にも、e-タックス、e-スクール、e-チケット、i-投票、e-警察、e-司法、e-医療、e-処方箋、e-土地登記簿、e-ビジネス(企業登録)、e-バンキングなどほぼすべての公的サービスに広がっている。

 例えば、申告の95%がオンラインで行われているe-タックスでは、納税者の1年間の収入・控除などが自動集計され、納税者はシステムにログインして、自分のデータを確認・修正して電子署名を承認するだけで、3〜5分で申告が終了する。その他、処方箋の98%、銀行取引の99.8%、駐車料金の90%がオンライン経由で行われており、行政サービスの99%はオンラインで提供され、24時間365日利用可能である。

新着記事

»もっと見る