2024年11月18日(月)

WEDGE REPORT

2021年10月6日

 2011年6月、ハンガリーの首都ブダペストで開かれた中国と中東欧諸国の経済貿易フォーラムの場で、中国の温家宝首相(当時)が中東欧諸国に対し経済などでの協力拡大を呼びかけた。翌12年には早くも、中東欧16カ国と中国の経済協力の基盤として「16+1」の枠組みが創設された。19年にギリシャが加わると、「17+1」になった。

 だが来年の発足10周年を前に、この枠組みが今後どのような形で残るか判然としない。というのも、中国の呼びかけに応じない国が出始めたからだ。

 今年の17+1サミット(首脳会議)は2月にオンライン形式で開催された。この会合で、これまで出席してきた李克強首相に代わって、中国側は習近平国家主席が自ら議長を務めた。それにもかかわらず、中東欧6カ国が大統領や首相ではなく、閣僚クラスを送り込んだのである。

2019年4月に行われた中国と東欧諸国らの経済会合。今年はオンライン開催となり、首脳欠席の国が6カ国あった (JP BLACK/GETTYIMAGES)

 これまでも、例えばスロバキアのロベルト・フィツォ首相が15年のサミットを欠席し、20年にはチェコ共和国のミロシュ・ゼマン大統領が中国との協力で具体的な成果が得られないことを理由に出席を見送る(開催は新型コロナウイルスの影響で中止)など、似たような場面があった。だが今回、出席者の格を下げた国の数は前代未聞だった(下図)。

21年2月開催の会議。中国は習近平国家主席が参加
(出所)関係資料および報道を基に筆者・ウェッジ作成 写真を拡大

 その中にリトアニアも含まれていた。旧ソ連から独立したバルト海沿いのこの小国は、運輸・通信相が出席した。そして5月下旬になると、17+1の枠組みそのものから離脱することを発表し、他の欧州連合(EU)加盟国に追随するよう呼びかけた。離脱を宣言した際、ガブリエリス・ランズベルギス外相は、「17+1の枠組みはEUの結束を損なう」と指摘した。同じくバルト三国のエストニアでは、議会のメンバーが離脱すべきだと訴え、ラトビアでも離脱をめぐる議論が繰り広げられている。

 リトアニア外務省内の関係者は、「会議に首脳級の出席を要求するなど、国内の政治決定に口を出してくる中国の高圧的な態度が見られた」と指摘する。首都ビリニュスでは、これはおおむね、同国の国家主権に対する干渉と見なされた。

 この「中国離れ」は同時に、台湾との協力を拡大すべきという声が国内で高まる中で起きた。20年4月には、リトアニアの政治家や公人約200人がギタナス・ナウセーダ大統領に公開書簡を送り、世界保健機関(WHO)の活動への正式な参加を目指す台湾の取り組みを支持するよう求めた。これは、新型コロナのパンデミックに対する台湾政府の効果的な対応と、台湾からリトアニアに送られた10万枚のマスクの寄付に反応する形で起きた動きだ。

 大統領は台湾のWHO加盟を支持することを拒んだものの、リナス・リンケビチュウス外相(当時)はWHO事務局長に、コロナ対策に関する世界保健総会に台湾を招待するよう要請した。6月には、リトアニアの現外相と外務副大臣が連名で現地メディアに論文を寄せ、国内外での非民主的な慣行について中国を批判するとともに、「台湾との関係の包括的強化と、国際社会において台湾を事実上の民主的、合法的な独立国家として政治的に認知することへの支持」を呼びかけた。

 今年3月には、リトアニアが台湾に貿易の窓口となる事務所を開設する計画が発表され、その後、2万回分の新型コロナワクチンを寄付している。台湾がビリニュスに代表機関を開設することも正式発表された。これは驚くような決断でもあった。なぜならビリニュスの事務所の名称は駐リトアニア「台湾代表処」と、欧州で初めて「台北」ではなく「台湾」の名前が表記される施設になるからだ。8月10日、中国はこれに抗議し、駐リトアニア中国大使を召還し、リトアニア政府にも駐中国大使を呼び戻すよう要求した。


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