■今回の一冊■
This Is How They Tell Me the World Ends
筆者 Nicole Perlroth 出版 Bloomsbury
サイバー兵器が世界で野放しになり、米国に脅威が迫っていると警鐘を鳴らすノンフィクションだ。ロシアはすでに米国の送電網や原発の制御システムに侵入し、いつでも大規模なサイバー攻撃をしかけられるという。ロシアはウクライナだけでなくサイバー空間で戦闘態勢に入っている。
ニューヨーク・タイムズ紙の女性記者がまとめた本書は、米国のサイバー・セキュリティーのもろさを告発する。中国やロシア、北朝鮮のハッカーたちが、米国の政府機関や民間企業、インフラ施設に対し、サイバー攻撃で次々と成功を収めるのはなぜなのか。本書の筆者は時にアルゼンチンやウクライナなどにも飛び、サイバー兵器を売買する闇マーケットに群がるハッカーやブローカーたちを追う。
核を超えた価値を持つサイバー兵器
驚くべきことに、サイバー兵器のマーケットにおける買い手とは、中央情報局(CIA)や国家安全保障局(NSA)、国防総省といった米国政府機関をはじめ、海外の各国政府だという。英国やロシア、ブラジル、インド、マレーシア、シンガポールなどもサイバー兵器の調達に積極的だ。
ハッカーたちが開発したサイバー兵器は、高いものでは億円単位の値段がつく。核ミサイルを開発するコストを考えれば、国家にとってサイバー兵器ほど便利なものはない。
ハッカーたちはいまや核物理学者に匹敵する。
Hackers weren't hobbyists anymore. They weren't playing a game. In short order, they had become the world's new nuclear scientists—only nuclear deterrence theory did not so neatly apply. Cyberweapons didn't require fissile material. The barrier to entry was so much lower; the potential for escalation so much swifter.
「ハッカーはもはや単なるオタクではなかった。悪ふざけをしているのではなかった。ハッカーは一転して新たな核科学者になってしまった。しかも、核の抑止力の理屈がそれほどちゃんと当てはまらない。サイバー兵器は核分裂性物質を必要としない。サイバー兵器を獲得するのはとても容易で、危機が増幅されるリスクがとても大きかった」
プログラムミスから侵入
なぜ、サイバー兵器が野放しになり、米国が日常的に被害を受ける対象になったのか。本書は、米国政府が自分で種をまいた結果だ、と結論づける。米国の諜報機関は対テロ戦争を名目に、自分たちがサイバー兵器を自由に使うために、サイバー兵器が拡散するのに目をつぶってきたのだ。