2024年12月10日(火)

ベストセラーで読むアメリカ

2022年1月12日

今でもロシアとの緊張状態が続くウクライナ(ロイター/アフロ)

■今回の1冊■
The Kill Chain
筆者 Christian Brose
出版 Hachette Books

 この本をとりあげるのは「米軍が中国人民解放軍に負ける日、軍備のデジタル化遅れに警鐘」(2020年10月14日)に続き2回目だ。前回の本コラムでは、最新のテクノロジーを導入する中国人民解放軍についての話を中心に紹介した。本書は実は、14年にロシアがクリミアを併合した際の米国の狼狽ぶりも紹介している。米国がロシア軍の素早い動きに虚を突かれ、その軍事テクノロジーの高さに驚いたと記しているのだ。

ウクライナ危機で米軍は頼りにならないのか?

 ロシアがウクライナ情勢を巡り強硬な姿勢を崩さないのは、西側諸国、特に米国による抑止力の限界を見透かしているからだ。14年のクリミア併合でも実は、米国国防総省は米軍を上回るロシア軍の実力を目の当たりにしている。

 米国軍のデジタル化の遅れに警鐘を鳴らす本書は、ロシア軍の実力について驚くべき指摘をする。ロシアが14年にクリミアを併合した後、米国の軍事専門家たちはロシア軍の実力を検証し、次のような認識が広まったという。

 A troubling realization began to emerge in parts of the Department of Defense and Congress: The United States could lose a war to this new Russian military. Indeed, Ruissan victory could be a fait accompli.

 「厄介な現状認識が国防総省や議会で広がり始めた。米国はロシアの最新鋭の軍と戦ったら負けるかもしれない。実際、ロシアが勝つのは当然とも言いうる」

携帯電話で位置情報を把握し、攻撃

 This was not a Russian military that most in Washington recognized. It had highly capable weapons, such as electronic warfare systems, communications jammers, air defenses, and long-range precision rocket artillery, much of which was better than anything the US military had. And the Little Green Men used these weapons to devastating effect, waging the kind of high-speed, precision warfare that had long been the purview of the US military alone.

 「これは、ワシントン政界が思い描いていたロシア軍ではなかった。高性能の兵器を備えていた。電磁波を利用する電子戦システムや、通信妨害、防空システム、命中精度の高い長距離ロケット砲などだ。しかも、そのほとんどが、米軍が装備していたものより性能がよかった。そして、リトル・グリーン・メンと呼ばれたロシアの特殊部隊はこれらの兵器を驚くほど効果的に使いこなし、ハイスピードで精密な戦闘を展開してみせた。これはもともと長らく米軍だけが保持しているはずの戦闘能力だった」

 リトル・グリーン・メンと呼ばれたロシア軍の特殊部隊の戦闘能力について、ウクライナ軍の関係者から得た証言も紹介している。


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