2024年4月26日(金)

ベストセラーで読むアメリカ

2022年1月12日

 いわゆるゲラシモフ・ドクトリンと呼ばれる、現代の戦争の新たなルールだ。軍隊が地理的にどこに展開しているかどうかということはもはや問題ではない。平時であっても、具体的な戦場がなくても、常に戦争は起こっていると考えるべきだ。すべての場所が戦場なのだ。非軍事的な手段とは例えば、サイバー攻撃であったり、ソーシャルネットワークを通じて偽情報を流して、社会的な混乱を起こすことだ。

 ロシアが16年の米国大統領選に介入したとされる一件は記憶に新しい。その真偽や詳細が分からないままであるがゆえに、米国の大統領選では不正が行われているという陰謀論が広がった。21年1月6日に、トランプ前大統領の支持者たちがワシントンで議会議事堂に乱入した事件も、その遠因を探るとロシアがしかけた情報戦にその端緒があるともいえないだろうか。

ロシアは「西側によるウクライナ侵攻」の姿勢

 本書ではふれていないが、ウクライナは過去5年のうちに、すでに幾度かサイバー攻撃を受け、大規模停電などの被害にあっている。ウクライナにあるチェルノブイリ原子力発電所(1986年に爆発事故)の監視システムも障害を起こした。

 ウクライナに対する一連のサイバー攻撃の首謀者はロシアだとみられている。そういう意味では、ロシアはすでにサイバー空間を通じてウクライナに侵攻している。これに対し、西側諸国が有効な対抗策を打てていない現状は見逃せない。

 そもそも、ロシアのプーチン大統領は、ウクライナは大ロシアの一部だと信じていると言われる。プーチンにとっては、ウクライナに侵攻しているのは西側諸国だとの思いが強いのだろう。

 ゲラシモフ・ドクトリンに照らして考えれば、西側諸国がロシアに対しすでに戦争を仕掛けているとの意識があるのかもしれない。おまけに、ロシアが米国軍をさえ凌駕する実力を持ち始めたことを考えると、ウクライナ情勢を巡る情勢の先行きは予断を許さないのではないだろうか。

   
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