プーチンのロシア

2021年11月26日

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佐々木正明 (ささき・まさあき)

ジャーナリスト、大和大学社会学部教授

1971年岩手県生まれ。大阪外国語大学(現・大阪大学外国語学部)卒業後、産経新聞社に入社、大阪社会部、モスクワ支局長、リオデジャネイロ支局長、運動部次長、社会部次長を歴任。特派員として五輪・パラリンピックやサッカーW杯を取材した。2021年春から現職。著書に『恐怖の環境テロリスト』(新潮新書)、『シー・シェパードの正体』(扶桑社新書)。

 地球温暖化は極寒の国、ロシアの発展に寄与する――。プーチン政権幹部はほんの数年前までは、こうした趣旨の発言をして憚らなかった。いわく気温が上がれば、シベリアでの農業に適した耕作地が増え、一方で、海の氷が溶けて、スエズ運河経由に代替するアジア・欧州間の北極海航路が開ける、と。

 しかし、ロシアは2019年9月に気候変動に関するパリ協定に批准する1年ぐらい前から、その姿勢を劇的に変化させる。そして、プーチン大統領は21年10月に「2060年までに二酸化炭素(CO2)排出実質ゼロ」を表明。その理由はロシアの地球温暖化のスピードがほかの地域よりも早く「気候変動と永久凍土融解、ロシア経済脅かす」(米紙ウォール・ストリート・ジャーナル)からだ。

ロシアにとって温暖化は、北極海航路が開拓されるなどメリットもある(Jean Landry/gettyimages)

気温上昇は北極海航路開拓の好機

 「確信をもって言えるのだが、ロシアの力と可能性は北極地域によって大きくなるだろう」

 プーチン大統領は毎年、国営テレビ、ラジオ、ネットでの生放送を通じて、国民からの質問に答える「国民との直接対話」というイベントの主役になる。2000年に就任以来、毎年欠かさず行われており、年によっては対話時間が5時間弱に及び、90以上の質問に答え続ける。

 17年6月には北極圏開発というテーマが設定され、「北極はロシアの将来を保障する最重要地域だ」と前置きしながら、カメラの前でこう語り始めた。

 「2050年までに炭化水素資源の約30%が北極で採掘されることになるだろう。『ノヴァテク』(ロシアのガス大手)は北極圏ですでに工場を建設しており、都市を丸ごと作り、飛行場や港湾施設まで建設した。経済的観点から北極は極めて重要なのだ」

 大統領は北極海航路についても言及した。アジア・欧州間の貨物輸送はスエズ運河からマラッカ海峡経由が大動脈だが、北極海航路を利用すれば、輸送時間が最大40%にまで短縮が可能。ロシア政府が用意した原子力砕氷船団のエスコートにより、安全な貨物輸送を保障できる。カナダとともに広大な北極圏を治める国家の主は、この地域の軍事的重要性にも触れながら、こう話した。

 「温暖化傾向が続き、北極圏航路では航行可能な時間が延びるだろう。これは北極海航路が今よりはるかに頻繁に利用されることを意味している。いわゆる『非地域大国』(筆者注・中国や日本を念頭にしていると思われる)もこの地域に積極的な関心を示しており、そうした大国と協力する用意がある。航路の利用やそれらの領土における経済活動を完全に確保し、(この地域の)自国の主権を確保する必要がある。軍事的側面も忘れないようにしよう。国の防衛力の確保という観点から極めて重要な地域だ」

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