プーチンのロシア

2021年11月26日

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佐々木正明 (ささき・まさあき)

ジャーナリスト、大和大学社会学部教授

1971年岩手県生まれ。大阪外国語大学(現・大阪大学外国語学部)卒業後、産経新聞社に入社、大阪社会部、モスクワ支局長、リオデジャネイロ支局長、運動部次長、社会部次長を歴任。特派員として五輪・パラリンピックやサッカーW杯を取材した。2021年春から現職。著書に『恐怖の環境テロリスト』(新潮新書)、『シー・シェパードの正体』(扶桑社新書)。

排出量は多くても対策には消極的

 近年、政権が力を入れてきた北極圏開発。この時の発言は地球温暖化がもたらすロシアのメリットを国民に説明しているようにも聞こえた。モスクワ駐在の各国外交官や報道機関の特派員はさぞかし、プーチン氏の北極圏開発の発言に力点を置いて、本国に打電したに違いない。

 国際機関などの統計によれば、ロシア一国でのCO2排出量は1位中国、2位米国、3位インドに続き4位となる。全国地球温暖化防止活動推進センター(JCCCA)は1年間に出す一人当たりの排出量(CO2換算)で、ロシア人は10.6㌧と中国人(6.7㌧)、インド人(1.6㌧)を上回ると指摘する。

 しかし、ロシアは地球温暖化防止のための多岐にわたる国際的な協力態勢が構築されている中で、消極的な姿勢を取り続けてきた。2015年12月の国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)で採択された、産業革命前からの世界の平均気温上昇を2度未満に抑えることを目指すパリ協定についても、批准したのは、協定参加197カ国・地域のうち、187番目。それは、多くの領土が氷の大地と海に覆われるロシアが、地球温暖化のメリットを享受できるからにほかならない。ロシア政府内部でも、このパリ協定批准に対して、相当の議論が組み交わされたことが推察できる。

温暖化のスピードが早いロシア

 気温上昇がもたらす影響は、農業国ロシアの農産物の価値をさらに高める。これまで農作物の生産は、比較的、気温が温暖なウラル山脈以西の欧州地域南部が主流だった。ところが、温暖化によって、ツンドラ地帯の地中に広がる永久凍土層が溶け、農作地に適した土地が飛躍的に広がる。米紙ニューヨークタイムズが昨年まとめた気候変動問題の特集では、ロシアの研究者ナデージュダ・チェバコワ氏の研究成果が紹介された。

 「(これまでのように)CO2が多く排出された場合、2080年までにシベリアの約半分が農地の適するようになる」

 筆者が1991年の大学入学後、3度の長期滞在を得て、ロシア暮らしを体感するようになったこの30年間だけを見ても、モスクワでの降雪期間や川や池などが凍る期間が格段に短くなっている。シベリア地域でも、前世紀までは春の訪れは5月が通例だったが、今では4月になれば雪がすっかりと溶けるようになったという。

 ロシアは世界のどの地域と比べても地球温暖化のスピードが速いことが科学調査によってわかっている。2017年に公表したロシア天然資源環境省が発表した「2017年のロシア連邦の環境保全と状況について」という報告書によれば、1976~2017年の40年間の比較で、地球全体が10年間に0.18度上昇したのに対して、ロシアではその2.5倍の同0.45度上昇している。2016~17年では特に、冬と春の時期に、シベリア南部や東部の北極圏地域での気温がこれまでの平均気温より2~3度あがる異常気象に見舞われた。

 10月の気温上昇で、欧州地域南部やシベリア地域で初雪の時期も遅くなっている。北洋艦隊の発表で、北極圏では氷河が減少し、5つ以上の新たな島が発見されたとの報告もあった。北極海航路の航行については現段階でも航路全域で1年のうち6~7カ月は航行が可能であり、原子力砕氷船団を使用すれば通年の航行も可能になっているという。

マンモスの遺体から炭疽菌が……

 地下の温度が2年以上連続して0度以下になる地面のことを「永久凍土」という。ロシアの国土の10%以上は何百年前に形成された永久凍土に覆われている。ここ10年を見ても、各地でその凍土が溶けて、地中に冷凍保存されていたマンモスの死体がそのままの形で発見されたケースが数多く報告されている。その死体から氷の中に封印したはずの危険な細菌が空気中に大量に放出されてしまう恐れがあるという。

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