2024年12月7日(土)

World Energy Watch

2024年2月21日

 先月中部地方で講演の機会があった。講演の中で水素の需要と供給についても触れたが、講演後の質疑応答の際、地方議員の方から次の質問があった。

 「地元では洋上風力設備を設置し、その電気を利用した水の電気分解により水素を製造、さらに需要地まで輸送する事業が検討されている。地元での説明では良い事業としか聞いていなかったが、今日の講演で初めて事業の将来はあまり明るくないとの印象を受けた。事業の評価はどうだろうか」

洋上風力と水素製造が地域を豊かにするかは疑問符が付く(写真はイメージ。audioundwerbung/gettyimages)

 過疎に悩む地域は、発電事業と水素製造により地域で雇用を生み過疎に歯止めをかけると意気込んでいるのだろうが、残念ながら洋上風力と水素製造による地域振興は難しい。

 二酸化炭素(CO2)を排出しない洋上風力発電の電気から作る水素は、グリーン水素と呼ばれ脱炭素に必要とされる。しかし、事業については疑問だらけだ。

 洋上風力設備で発電される電気のコストは安くない。しかも、最近のインフレで資機材のコストは大きく上昇し、発電コストを引き上げている。

 水の電気分解装置は高額だ。一方、洋上風力発電設備の利用率は30%台なので電気分解装置の利用率も30%台になる。製造される水素の単位当たりの減価償却額も大きくなり、水素のコストを押し上げる。

 水素の利用は、電気の利用が困難な高炉製鉄、化学、セメント、航空機、外航船などの分野で想定されるが、需要地に水素を輸送するコストは高い。水素ではなく、電気を送り需要地で電気分解により水素を製造するのがコスト面からは理に適っている。

 地元の雇用も期待できない。洋上風力設備の雇用は建設時が主であり、工事が終われば、操業に係る雇用は限定的だ。加えて働く人は地元に居住する必要もない。遠隔地から操作し、補修の際に人を派遣すれば済む。

 どこから見ても、洋上風力と水素による地域創生は無理筋にみえる。


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