2024年12月22日(日)

World Energy Watch

2024年1月18日

 国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)は昨年12月13日に閉幕したが、その際、新聞・テレビといった大手メディアは「化石燃料からの脱却に合意」という画期的な成果が得られたとの報道を展開していた。しかし合意された決定文書では、「科学に沿った形で2050年までに排出ネットゼロを達成すべく、エネルギーシステムにおいて化石燃料からこの10年間で行動を加速させ、公正で秩序ある、かつ公平な方法で移行すること(transition away from fossil fuels)を呼びかける」との記述であった。

中国の火力発電所(hrui/gettyimages)

 前々回のCOP26において、欧米諸国は石炭火力の段階的撤廃(phase out)という文言を決定文書に盛り込もうと試みたものの、インドをはじめ途上国の反対に遭い、段階的削減(phase down)にトーンダウンさせられたように、COP28でも欧米諸国や島嶼国は当初、化石燃料のphase outという文言の採用を企図したものの、特にサウジアラビアやロシアの反対により今回も押し込めなかったということになる。妥協の結果、transition awayという表現が採用された経緯を踏まえれば、脱却という表現が適切ではないことは明白だろう。

 決定文書の表現は回りくどいが、今後10年間で行動を加速するものの(ただし、加速のスピードには何の規定もない)、移行を経て脱却が実現するスケジュールは何ら合意していないと解釈するのが自然だ。決定文書はCOP28が化石燃料からの移行を各国に呼びかけたと書いているだけで、各国が移行に向けていかなる対策をするのか、移行の最終ゴールである脱却への具体的なスケジュールは全くコミットされていない(杉山大志「COP28『化石燃料からの脱却に合意』とは本当か」『アゴラ 言論プラットフォーム』 )。

 化石燃料からの移行(いつかは脱却)がCOPで初めて決定されたのは評価できると考える向きもあるかもしれないが、決定文書には「再エネ、原子力、炭素回収・貯留(CCS)、低炭素水素製造等のゼロ・低排出技術加速」等が盛り込まれ、さらに「エネルギー安全保障に配慮しつつ、エネルギー移行を進めるための『移行燃料』(天然ガス等)の役割」も明記されている。原子力、CCS、天然ガスがポジティブな意味で決定文書において言及されるのも初めてであり(有馬純「COP28の結果と評価」『アゴラ 言論プラットフォーム』)、化石燃料のひとつである天然ガスはむしろ当面活用されるべきとお墨付きを得たと言える。またCCS技術が実用的なレベルにコストダウンすれば、化石燃料を活用できる時期は伸びる可能性もある。

やり玉に挙げられる石炭の消費量は史上最多に

 COP26でやり玉に挙げられた石炭は、COP28でも開幕当初は石炭火力をphase outに追い込もう(すなわちCOP26のphase downから巻き返そう)と狙い撃ちにされていた。その後phase outのターゲットが化石燃料全体に広がった経緯は日本の報道を見ているだけではよく分からない。最終的に決定文書では、「排出削減対策が講じられていない石炭火力はphase downさせる」と結局COP26と同じ表現に止まった。


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