限界効用理論で知られる英国の経済学者ウィリアム・スタンレー・ジェヴォンズが、世に知られたのは1865年に出版した「石炭問題」でした。
ジェヴォンズは、英国の石炭消費量が産業革命以来年率3.5%で増加していたので、「出版当時の石炭年産量約1億トンは、100年経てば約26億トンに達する。やがて石炭が尽きる」と指摘しました。
石炭が尽きれば産業を支えるエネルギーはなくなり、産業革命前に産業と生活は逆戻りするはずとし、英国の石炭の埋蔵量は当時90億トンでしたので、100年以内に成長はなくなり人口増も止まると、ジェヴォンズは主張しました。
ジェヴォンズは水力、風力、潮力などの再生可能エネルギー(再エネ)も考えましたが、発熱量が足らず石炭を代替できないと結論付けました。
むろん、予測は外れました。ジェヴォンズはその後の石油と天然ガスの登場を想像できなかったから無理もありません。
英国の石炭の埋蔵量は確かに尽き今数千万トンを残すのみですが、世界の石炭埋蔵量は依然100年以上の生産量を支えるほどあります。
しかし、ジェヴォンズが心配したように枯渇性資源と呼ばれる化石燃料はやがて尽きるはずです。化石燃料生成の過程からその埋蔵量に限りがあるからです。
石炭は何の化石?
石炭は植物の化石からできています。石炭は最も古いものは3億年前の植物が火山活動などで埋まり、その後、熱と圧力により木材の中に含まれていた酸素と水素が水分として蒸発し炭素分が残った(炭化と呼ばれます)ものです。炭素分70%以上が石炭です。
植物から石炭に変わる間の炭化度が進んでいない、石炭になる前のものには、スコットランドでウイスキーの生産に利用されるピートがあります。
植物の化石である石炭は、世界の多くの地域に賦存することが特徴です。どこにでもありますが、賦存条件が異なるため、どこでも掘れるとは限りません。日本、英国、フランスなどは採炭条件の良いところは掘りつくしました。
石炭の破片を顕微鏡で見れば、どの植物のどの部分、葉、幹、が変化し石炭になったか分かります。ただし、実験室で木材に熱と圧力をかけても石炭に変わることはありません。時間が必要と考えられています。
植物は何十年もかけ空気中の二酸化炭素(CO2)を吸収し体内に蓄え成長します。石炭を燃やすと、何十年、何百年もかけ蓄えられた炭素を一度にCO2として排出します。
植物が埋まった年代、場所などにより石炭の炭素の含有量は異なります。含有量が少ないものから褐炭、亜瀝青炭(あれきせいたん)、瀝青炭、無煙炭となります。
褐炭は、豪州、米国、ドイツなどに賦存しますが、水分が高く発熱量が低いため輸送に適しません。水分が高い石炭は自然発火し易く輸送途上で発火する可能性が高くなります。
また、固体の石炭の輸送費は高いので発熱量が低い石炭の輸送は不利です。褐炭は簡単に掘ることができますが、炭鉱の隣に建設された発電所での利用に限定されます。
瀝青炭は、燃料用に最も利用されている石炭です。品質が良いものは原料炭として高炉製鉄のコークス製造に利用されますが、高品位の原料炭の生産地は豪州、米国の一部などに限定されています。最も炭素分が多い無煙炭は、豆炭、練炭、電極などの原料として利用されます。