今年4月に札幌で開催される主要7カ国(G7)気候・エネルギー・環境相会合に向けた準備会合において、議長国を務める日本に欧米勢が批判を強めているらしい。日本が準備した共同声明原案について、石炭火力の全廃時期を明示していないことに反発しているという(「日本の共同声明原案、他のG7が反発 石炭火力の全廃時期示さず」)。
昨年ドイツで開催した際にも、欧米勢は具体的な全廃時期として2030年という目標を明示するように主張したのに対し、日本はあくまで時期を示さない「段階的廃止」を譲らなかった。今回も同様の書きぶりで臨もうとする日本に対し、欧米勢は不満を強めているというのだ。
建前もかなぐり捨て化石燃料を爆買いする欧州
しかし自らを棚に上げてよくぞ言えるなと呆れるばかりである。欧州はウクライナ戦争の開戦以降、世界中から化石燃料を買い漁っており、目の敵にする石炭についても欧州は昨年1億7600万トン輸入している。これは世界の石炭輸入量の13%に当たり、大きなシェアではないが、日本をわずかに下回る水準でそれなりの存在感があるとも言える。
注目すべきは、ロシアへの制裁の一環として22年8月以降、欧州連合(EU)はロシアからの石炭輸入を禁止しているにもかかわらず、22年は20年に比べ石炭輸入量が38%も大幅に増加している点である。ロシアからの輸入分を他国からの輸入で代替するだけに止まらず、輸入量全体を大きく増やしたというわけだ。
前年のEU(本稿で欧州という場合、EU加盟国以外の国々も含む欧州全体を指す。したがって欧州の石炭輸入量とEUの石炭輸入量は一致していない) のロシア産石炭の輸入量は5200万トンで輸入量全体の45%を占めていた。代替先の一例はコロンビアからの輸入であるが、欧州は従来コロンビアの石炭は先住民族を圧迫し、環境問題を発生させている「血まみれの石炭」として糾弾してきた。しかし自国のエネルギー供給が危ういと見るや手のひらを返し、ドイツのシュルツ首相はコロンビア大統領に「個人的に」電話してコロンビア炭の出荷増を要請、実際にドイツの22年10月までのコロンビアからの石炭輸入は前年比4倍となったという(「脱炭素はどこへ?「血まみれの石炭」に手を染める欧州」)。
似たようなことはガスでもあり、ロシアからガス供給を絞られ代替供給先を探していたドイツはカタールと液化天然ガス(LNG)の大型長期契約を22年11月に結んだ。ちょうどサッカーワールドカップ(W杯)開催期間中であったが、W杯ではドイツをはじめ欧州の国々は開催国カタールの人権問題について強烈に批判していた。
一方でカタールをこき下ろしながら、自国のエネルギー確保のためにはその相手と握手をしているわけで、要するに、欧州の国々は平気で二枚舌を使って交渉しているということだ。欧州の言行不一致は人権問題に限らず、気候変動問題でも同様である。カタールのエネルギー相は「石油、天然ガスを掘る企業は悪魔のようだと非難していた国が、いまはもっと掘れだ」と皮肉たっぷりにインタビューに答えたというが、国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)などの場で石炭をはじめとする化石燃料排斥を声高に叫んできた欧州が化石燃料買い付けに躍起になる姿は滑稽である。