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World Energy Watch

2022年8月18日

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堀井伸浩 (ほりい・のぶひろ)

九州大学経済学研究院准教授

慶應義塾大学大学院修士課程修了後、アジア経済研究所に入所。中国清華大学技術・経済エネルギーシステム分析研究院客員研究員、日本貿易振興機構アジア経済研究所副主任研究員などを経て現職。専門は産業経済論(中国のエネルギー・環境問題)。

 岸田文雄首相が7月14日の記者会見で、原発の再稼働に言及し、前稿「原発再稼働へ 再エネはやっぱり主役にはなれない」でその必要性を論じたが、「火力発電の供給能力を追加的に10基を目指して確保する」とも述べていることにも注目したい。本稿は火力の供給能力を拡充するという岸田首相の方針について、欧州のエネルギー政策の潮流を追うとともに評価する。

節電が呼びかけられているのは、過度な自然エネルギーへの傾倒も要因だ(ZUMA Press/アフロ)

欧州で進む石炭火力の廃止見直し

 「火力の供給能力追加」と口にすれば、「脱炭素に逆行!」と目くじらを立てる人たちがすぐに湧いてくる。しかし、国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)において化石燃料の排斥を画策してきた欧州でも最近、火力発電、しかも石炭火力の廃止スケジュールの見直しが相次いでいる

 具体的な例を挙げれば、ドイツは既に停止措置を講じていた石炭火力を2024年3月まで再稼働することを7月に決定した。オーストリアも同様に20年に稼働停止済の石炭火力の再稼働を、オランダは石炭火力に課していた発電量の上限を24年まで撤廃することを、それぞれ6月に決定している。英国も一部石炭火力の稼働期間延長に踏み切った。

 背景にロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー地政学の変化があることは確かである。欧州、なかでもドイツはロシアのガスへの依存度が非常に高く、冬季の暖房をガスに頼っている関係上、ガスを発電に用いる量を極力少なくするために、石炭火力の再稼働に踏み切ったということのようだ。

 しかし考えてみると、化石燃料を散々目の敵にしてきた欧州連合(EU)なのだから、これを好機に更なる化石燃料からの脱却を進めればいいじゃないかと意地悪も言ってみたくなる。実際のところ再エネ推進派はエネルギー危機は再エネ拡大で対応可能と強弁している。

 緑の党が政権参加しているドイツはそうした発想に基づいてだろうか、石炭火力の再稼働を決定すると同時に、30年に再エネの発電量を600テラワット時(TWh)(現状240TWh)まで拡大し、再エネの比率を80%以上に拡大する目標とそのための法改正を実施した。ドイツとしては、石炭火力の再稼働は緊急避難措置であり、気候変動対策を後戻りさせるものではないとアピールしている。とは言え、COP26で石炭火力の「段階的廃止」を合意文書に盛り込もうと画策していた(インドの土壇場の反対で失敗)ことを考えると、節操のない手のひら返しという批判は免れないだろう。

 ウクライナ侵攻という非常事態だから脱炭素も一時停止するのも仕方ない、という受け止め方も多いかもしれない。しかし火力への回帰はウクライナ侵攻の影響によるものだけなのだろうか?

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