World Energy Watch

2022年1月20日

»著者プロフィール
著者
閉じる

堀井伸浩 (ほりい・のぶひろ)

九州大学経済学研究院准教授

慶應義塾大学大学院修士課程修了後、アジア経済研究所に入所。中国清華大学技術・経済エネルギーシステム分析研究院客員研究員、日本貿易振興機構アジア経済研究所副主任研究員などを経て現職。専門は産業経済論(中国のエネルギー・環境問題)。

 昨年11月、英国グラスゴーで開催された国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)。ここで白日の下にさらされたことは、2015年のパリ協定で合意した世界全体目標および具体的な削減に向けた国別貢献目標(NDC)の引き上げを画策する先進国と経済開発を優先したい途上国との間の埋めがたい〝分断〟であった。その象徴が石炭火力の「段階的廃止」へと進む流れに対してインドが終盤で異を唱え、「段階的削減」に押し戻した一幕であった。

気候変動対策を考え直す契機に

 脱炭素に向けて進む世界の潮流に「乗り遅れるな」と煽る言説をよく目にする。他の国々もやっていることだからと思考停止して、乗り遅れまいと目標をただ引き上げた我が国であるが、潮目があっと言う間に変わってしまい、はしごを外されて大損害を被る恐れがある。インドが投じた一石はその予兆かも知れず、改めて先入観を捨てて我が国のあるべき気候変動対策というものを主体的に考え直す契機とすべきである。

 本稿は、①再エネを主力電源に、②持続可能な開発目標(SDGs)達成を目指して気候変動対策を加速すべきだ、③高い二酸化炭素(CO2)削減目標を掲げることで商機をつかんでグリーン成長できる、などといった巷間流布されている言説に対し、反論していく。その上で、近年強烈な逆風にさらされている石炭火力について、世界の潮流だからと無批判に冷遇しようとしているが、石炭火力の脱炭素化こそ、我が国の気候変動対策の目玉に据えるべきと主張する。

(FOTOFORCE/gettyimages)

再エネ主力電源化と安定供給上のリスク

 目下の気候変動対策は再エネ、特に風力と太陽光の導入拡大がメインシナリオである。しかし風力と太陽光の最大の弱点は自然条件の変化で出力が大きく変動する間欠性で、風力は風が止めば、太陽光は曇天・雨天、そして夜間になれば出力が低下するため、何らかの形でその出力減少を埋め合わせる必要がある。

 蓄電池が解決策の一つだが、現段階ではコストがあまりに高く、結局出力が制御できる化石燃料による発電がカバーしている。現在のように化石燃料による安定電源が主力で、風力・太陽光が電源構成のあくまで一部を担っている状況であれば安定的に電力を供給できるが、出力変動の激しい再エネの比率が上がってくるとエネルギー供給量が急減してもカバーする電源が足りず系統全体を不安定化させ、最終的には停電を引き起こす。

 実際、COP26の直前、中国では全省の3分の2の地域に及ぶ深刻な停電に見舞われたが、その一因は風力発電の出力が通常の10分の1にまで急減したことであった。またCOP26開催中の英国を含む欧州でも風力発電の出力が大幅に低下し、化石燃料の発電を大幅に増加させて辛うじて電力需給の逼迫を回避した経緯がある。再エネだけでは電力の安定供給が維持できないことはその発電特性から自明のことで、再エネの主力電源化を進めるというのは電力の安定供給をリスクにさらすことである。

関連記事

新着記事

»もっと見る