経済発展には産業化のプロセスを経る必要があるが、産業化は大容量かつ安定した電力の供給が必要である。既に産業化を成し遂げた先進国には過去に築き上げた化石燃料による電力システムがベースとしてあり、あくまで追加的に再エネを導入することで間欠性や割高な価格といった再エネの問題は何とか対処可能かもしれない。しかし化石燃料による基盤を持たない途上国がイチから再エネで産業化を支える電力システムを構築するのは相当困難である。
再エネ一本鎗は〝偽善〟
SDGsの17の目標は相互にトレードオフになっているものも多く、とりわけ気候変動対策は適切に行わないと他のSDGs達成の障害となる可能性が高い。上に挙げたSDGsの普遍的な目標の多くは経済発展の遅れから生じているものが多く、気候変動対策が再エネ一本鎗で進んだ場合、途上国の経済発展の足を引っ張り、普遍的な目標の多くが達成できない事態を招く可能性がある。気候変動は長期的に対処すべき問題であり、いま困難に直面している人々がいる貧困・飢餓撲滅を放置して再エネ一本鎗を推し進めることは偽善である。
気候変動対策の必要性を説く人たちは目標13のことだけを語り、目標7については黙殺する。しかし先進国が石炭火力をより高効率でクリーンなエネルギーへと進化させ(もちろんCO2以外の環境負荷については既に十分クリーンである)、途上国に経済性に優れたエネルギー源を供給することはまさに目標7の達成にプラスである。それにもかかわらず、近年石炭火力を排斥する動きが全世界的に進められており、総仕上げとしてCOP26の場で「段階的廃止」が打ち出された。インドの造反によりその目論見は砕かれることとなったが、こうした石炭火力排斥の動きはSDGs達成を実際には阻害するものであると認識すべきである。
化石燃料の低炭素化こそ我が国のグリーン成長戦略
そもそも世界のCO2排出量は中国、米国、インドの3カ国で48.7%と圧倒的なシェアを占めている。こういう状況で、経済規模が小さな国々がその小さなエネルギー需要を支えるために化石燃料を利用することが世界の気候変動にどれだけ影響を及ぼすというのだろうか。化石燃料利用が経済発展を促進するメリットとわずかなCO2排出増加がもたらすデメリットを比較考慮すれば途上国の石炭火力導入は責められるべきものではないはずだ。
その意味で、我が国ばかりか、中国までもが、欧米を中心とした国々の圧力を受けて、石炭火力の海外展開を今後行わない決定を下したことは状況をかえって悪化させる懸念がある。経済発展を志向する途上国にとって今後先進水準の石炭火力へのアクセスを閉ざされることとなるためである。国際援助によるファイナンスが期待できなくなれば、発電効率の低い、従来型大気汚染への対策も不十分な石炭火力が途上国に導入される結果を招く恐れがある。それはSDGsの7番目の目標を達成できず、ひいては他の多くのSDGs達成を危うくする事態ということになる。
もちろん現在の石炭火力をそのまま途上国に導入していこうと言っているわけではない。再エネの問題も今後蓄電池のコストダウンなどで解決される可能性があるように、石炭火力の高い炭素強度という問題も同様にイノベーションで解決される可能性があり、だからこそ石炭を排斥してその芽を摘むべきではないのだ。石炭火力の脱炭素につながる技術のシーズとして、石炭ガス化複合発電(IGCC)や二酸化炭素回収・利用・貯留(CCUS)、バイオマス混焼など既に実用化段階のものから(但し、コストはまだ割高である)、水素・アンモニア混焼など今後イノベーションが必要なものまでいくつもある。
これらのシーズを実用化し、途上国の安価で信頼できるエネルギーへのニーズに応えていくことが求められている。石炭火力関連のCO2削減技術について我が国はこれまでの技術基盤があり、事実IGCCやCCSは日本の技術が世界トップレベルにある(世界で導入されているCCS設備の7割が三菱重工製)。