電気料金の上昇が続いている。東京電力で標準的な電力使用量(月間260キロワット時〈kWh〉)の家庭であれば今年6月の支払額は8565円とされている。昨年6月から24%の上昇になる。例えば、スーパーであれば照明、エアコン、冷蔵などの電力消費量は大きく、販売価格を引き上げないと上昇分の吸収は難しい。他の業種でも事情は同じだ。
電気料金を引き上げている要因の一つは、再生可能エネルギーの導入を支援する固定価格買取制度(FIT)だ。2022年度の買取総額は、4兆2000億円。節約できる化石燃料代金などを考えても電気料金による負担額は、2兆7400億円。電気料金1kWh当たり3.45円になっている。
6月の標準家庭の電気料金の1割以上897円は再生可能エネルギーの買取に使われていることになる。年間では標準家庭の支払額は約1万800円になる。
政府は、再エネ設備から発電された電気の買取価格の減額、入札制度の導入など消費者負担額の抑制に努めているが、その一方、再エネ導入支援のため、送電網の拡充、洋上風力の導入を図る予定だ。
ともに電気料金を引き上げる政策になる。今問題になっている停電危機を緩和する効果も、ほとんどない政策だ。
なぜ、再エネ導入を急ぐかと言えば、その理由は2つだ。一つは言うまでもなく、温暖化対策だ。二酸化炭素を排出する化石燃料を使用する電源を削減し、再エネ電源を増やせば温暖化対策にはなる。
もう一つは、自給率の向上だ。ロシアのウクライナ侵攻はエネルギーを取り巻く世界を変えた。ロシア産化石燃料依存度が高い欧州諸国は、再エネ導入と原子力発電所継続利用・新設により脱ロシア産化石燃料を急いでいる。日本も脱ロシア産化石燃料を急ぐため再エネ導入を進めるが、エネルギー事情は欧州とは異なる。
欧州が脱ロシア産化石燃料を急ぐ過程で、化石燃料価格急騰により電気・ガス料金も大きく上昇している。日本でもやがて電気料金が短期でも中期でも上昇することになるだろう。
電気料金が高騰する欧州諸国
欧州では、天然ガス供給を巡るロシアと欧州連合(EU)諸国の駆け引きが続いている。欧州委員会は、今年中にロシアからの天然ガス供給を3分の1まで縮小することを目標に米国、カタールからの液化天然ガス(LNG)調達量を増やし、EUに加盟していないノルウェーからのパイプライン経由の輸送量を増やしている。
そんな最中に発生したのが、米国フリーポートLNG輸出基地での爆発事故だった(サハリン2危機へ 節電ポイントなんかでお茶を濁すな )。爆発事故直後から、欧州の天然ガス価格は上昇を続け、輸出数量の減少が見込まれた米国市場では価格の下落が続いた。
その結果、欧州の天然ガス価格は、7月中旬までの1カ月間でほぼ2倍に上昇した。日本の5月着LNG価格の3倍を超える価格になった。