2024年4月18日(木)

World Energy Watch

2022年7月22日

再エネ送電線網増強でも停電危機は解消されない

 政府は、2030年に温室効果ガスを13年比46%削減する目標を設定し、発電部門からの二酸化炭素排出量を削減するため、太陽光発電の比率を約2倍、風力発電比率を約5倍に引き上げる目標を設定している。再エネの導入量の増加を図るためには、設備だけでなく、送電線網の増強も必要になる。

 これから再エネが導入される地点は、例えば洋上風力であれば、東北地方、北海道の日本海側などが有力になり、電力の消費地からは離れた場所になるので、送電線の増強が必要になる。

 経済産業省は、送電網の運用を行う広域機関に対し、北海道から首都圏への海底送電線を検討するように指示した。北海道から本州への送電線の能力を3.5倍に引き上げる200万kWの設備だ。この海底ケーブルを含め送電線への投資額は2兆2000億円と報道されている。敷設は相当先だろうが、電気料金での費用負担が必要になる。

 北海道から再エネの電気が送られてくれば、首都圏の停電危機は解消するのだろうか。そうはならない。今の停電危機の原因は、以下の3つだ。

① 東日本大震災以降の原子力発電所の停止

② 16年の電力市場完全自由化以降低利用率の火力発電設備の休廃止増

③ 太陽光発電の増加による火力発電設備のさらなる利用率低下・休廃止増

 再エネ電源からの電力供給が増えても、例えば夜間、凪の時など再エネが発電できない時に備え火力発電設備を用意しておく必要がある。その維持費用は電気料金で賄うしかない。北海道と首都圏で天候条件が異なることもあるので電力供給は多少改善するかもしれないが、海底送電線でも停電危機の根本原因は解消されない。

 今後の再エネ設備導入の主力を担うとして期待されているのは洋上風力発電だが、この負担も電気料金を引き上げることになりそうだ。

つまずいた洋上風力

 昨年12月洋上風力3地区の公募結果が公表されたが、三菱商事を中心とする企業グループが3地区すべてを獲得した。筆者は風力発電業界関係者から直接「価格が安すぎる」との言葉を聞いた。価格が安すぎるため、事業実現の可能性に疑問ありとの指摘だが、あまりに価格が安いと他の事業者がビジネスチャンスを失うとの意味にも取れた。

 落札価格が下がるのは消費者には朗報だが、異なる視点を持つ人たちもいるのだろう。経産省は、次回の公募から事業実施スピードを重視する一方、1グループの開発規模の上限を100万kWとする制度へのルールの変更を提案している。

 ロシアのウクライナ侵攻により脱化石燃料を急ぐ必要があり、さらに1グループに依存するリスクを避けるという説明がされているが、コストを下げるという大きな目的はどこかに置き忘れられたようだ。

 7月16日付日本経済新聞は、「100万kWが上限となれば大規模な受注が期待できないとして、洋上風力設備メーカーであるデンマークのべスタスは日本での工場建設をやめ、独西のシーメンス・ガメサ・リニューアブルエナジーも供給を見送る方針」と報道した。

 経産省は、日本での洋上風力発電設備導入により、設備製造事業が日本で興ることを期待し補助金を用意していたが、早くも躓いた形だ。


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