三菱商事は困惑しきりではないか。昨年末、秋田県および千葉県沖の3海域における洋上風力プロジェクトの入札で三菱商事を中心とするコンソーシアムが3海域すべて総取りで、しかも他の参加者の平均価格の半分程度という圧倒的な低価格で落札した一件である。
低価格で落札したことは国民の電気料金負担を軽減するわけなので、本来称賛されるべきことだ。ところがこの三菱商事コンソーシアムの落札に対しては「風力発電業界」から異論が噴出しているという。三菱商事コンソーシアムによる価格破壊が事業の実施可能性、産業育成、立地地域の合意形成の面で問題が生じうるとして、今後の入札基準の見直しや審査評価の透明化、更には今回の三菱商事コンソーシアム落札の結果さえも政府は見直すべきとする論稿まである。
見直せば、アジア展開への狙いとは逆行
筆者はむしろ三菱商事コンソーシアムの落札結果を見て、日本の洋上風力に対する悲観的な見方を少し修正し、希望が見えた気がした。以前、別稿「日本の「グリーン成長」を可能にする条件は?(前編)」(国際環境経済研究所、2021年1月14日)で筆者は日本政府のグリーン成長戦略の筆頭に挙げられていた洋上風力について考察したが、その結論は、日本の洋上風力の産業化の規模とコストダウン目標が中国と比べると10年以上遅れていて、日本で市場を立ち上げていずれアジア展開を通じてグリーン成長という筋書きは全く現実性を欠くというものであった。
三菱商事コンソーシアムのプランは日中の差はまだ残るとしても、かなり縮めることに貢献できそうだ。それにもかかわらず、三菱商事コンソーシアムの低価格は「リスクを低く想定」し、「楽観的な事業見通し」によるものとし、今回の政府決定を覆そうと画策したり、今後の入札基準を見直そうとする動きは果たして理に適ったものなのだろうか? 中国との比較から考えてみよう。
現状は導入量もコストダウン目標も中国と圧倒的な差
20年12月に公表された『2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略』において洋上風力はわが国のグリーン成長を目指す分野の筆頭として挙げられている。政府の目標は30年に10ギガワット(GW)、40年に30~45GWの洋上風力を導入し、30~35年にキロワット時(kWh)当たり8~9円までコストダウンするというものであった。しかし中国の状況を見ると全く太刀打ちできないと感じざるを得ない。