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2022年2月14日

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堀井伸浩 (ほりい・のぶひろ)

九州大学経済学研究院准教授

慶應義塾大学大学院修士課程修了後、アジア経済研究所に入所。中国清華大学技術・経済エネルギーシステム分析研究院客員研究員、日本貿易振興機構アジア経済研究所副主任研究員などを経て現職。専門は産業経済論(中国のエネルギー・環境問題)。

新規参入者が牽引するイノベーション

 産業育成については中国の経験から論じてみよう。中国では17年以降に洋上風力の導入が加速し始めるが、その背景にあったのが国内の風力発電システムメーカーの「競争の激化」であった。

 中国は世界最大の風力発電導入国であり、陸上風力は2000年代後半に国内メーカーの成長がコストダウンを先導したことが導入の大きな後押しとなった。洋上風力についても国有企業である上海電気が16年には設備の82.6%と圧倒的なシェアを押さえていたが、20年にはそのシェアは38.5%にまで急低下、遠景能源と明陽智能がともに21.7%にまでシェアを急上昇させた。

 上海電気の洋上風力発電システムはドイツ・シーメンスの技術ライセンスを受けて生産するものであるが、遠景は国内の東方電気と共同開発した国産技術を用いたシステムであり、上海電気製と比べ価格は3割程度安いという。まだ数年の歴史しかない中国の洋上風力であるが、既に11社の風力発電システムの最終的な組み立てを行うアセンブリーメーカー、21社の運用企業が存在しており、こうして「競争の激化」が進んでいることで洋上風力の発電コストが急激に低下し、それが近年の導入急拡大の追い風となっている。

 この中国の洋上風力発電システムメーカーの競争状況からわが国は何を学ぶべきだろうか? 何と言ってもまずは、中国政府の競争促進によるコストダウンを追求する姿勢である。

 中国政府は元来、再エネの導入制度において企業間の競争を促し、価格を引き下げる効果を重視してきた。陸上風力の導入にあたっては競争メカニズムが働きやすい再生可能エネルギー割当基準(RPS)を採用し、太陽光はFITを採用したとは言え、世界でも最低水準の買取価格から出発し、その後も果断に買取価格を引き下げた。陸上風力の経験があるとはいえ、中国メーカーにとって新たな技術である洋上風力についても、22年からは中央政府による補助金は完全撤廃し、買取価格は大幅に引き下がる見通しである。

 買取価格の引き下げを進めてコストダウンを迫る環境を政府が作り出してきたということになるが、それに企業が応えることができるかどうかは確実ではない。中国が成功してきたのはやはりメーカーの新規参入を促し、多数の企業による競争が実現したことにあり、洋上風力でも上海電気によるほぼ独占態勢が続けばコストダウンは実現しなかっただろう。

競争のない日本企業は世界から姿を消す

 それは政府が先行企業を保護する姿勢を取らなかったからこその賜物だ。太陽光に至っては、いったん業界首位を占めた企業であっても数年後には没落する例がいくつもある(「日本の「グリーン成長」を可能にする条件は?(中編)」(国際環境経済研究所、21年3月11日)。新規参入企業が先行企業を打ちのめして台頭できたのは競争の条件が明瞭であったためであり、中国でも安定性など価格以外の要素が入札において考慮されないわけではもちろんないが、価格こそが最も重要な選定基準となっている。

 中国は風力も太陽光も後発ながら国内メーカーの育成に成功しており、その秘訣は行政による保護ではなく、競争を通じたものであったという点はわが国が真摯に学ぶべきことである。

 わが国は風力も太陽光も2000年代までは世界上位の一角を占める実力のあるメーカーを抱えていたが、現在はランキングから姿を消したどころか、アセンブリーメーカー自体が存在しなくなりつつある。巻き返しのためには行政の保護の下で護送船団的に共存を図る生ぬるい発想を捨て去る必要がある。

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