その意味で、三菱商事コンソーシアムの「価格破壊」は「風力発電業界」の生ぬるい発想を打ち破る強烈な目覚ましとなったと評価している。しかし「風力発電業界」は今後の入札基準の見直しや審査評価の透明化、更には今回の入札結果さえも見直すべきと政府に「政商」のように圧力をかけているという(「三菱商事「価格破壊」の衝撃…ニッポンに巣食う「再エネ政商」の目を覚まさせる“一撃”となるか」マネー現代)。
先に述べたように、今回の入札の制度設計に不備があったことは否めないが、だからと言って価格水準の比重を低め、事業可能性という曖昧さの残る基準の比重を高めるのは誤りである。国情が異なるので同じようには考えられないかもしれないが、中国では洋上風力に限らず陸上風力でも、国家プロジェクトに関する事業可能性は国が前面に出て担保し、事業者は価格と発電の安定性の面で競い合う状況となっている。企業にとっては効率性を上げるための努力に専念できる状況であると言える。
レントシーキングに政府は屈せずイノベーション支援を
経済学にはレントシーキングという概念があり、民間企業などが政府に働きかけ、制度や政策の変更を行うことで、自らに都合よく規制を設定することで超過利潤(レント)を得るための活動を指す。自分で努力して市場競争力を上げるよりも政治を動かしてライバルを排除した方が費用が掛からない場合にレントシーキングが発生する。
レントシーキングがもたらす帰結は競争の欠如によるイノベーションの喪失であり、コストの高まり=効率性低下という形で社会全体が被害を受ける。筆者には「風力発電業界」の行っていることはレントシーキングに他ならないように見えるし、最近政治家の中にも三菱商事を叩くことで制度見直しに介入しようと蠢動(しゅんどう)する動きが始まっているようだ。
資源エネルギー庁は今後の風力発電プロジェクトの評価基準を見直す方向性を示唆したとする報道もあるが、政府は真にグリーン成長を実現しようとしているのであればレントシーキングに決して屈するべきではない。三菱商事コンソーシアムは他の企業が考え付かなかったスキームを生み出したのであって、それこそイノベーションに他ならない。それを否定し、価格以外の評価基準の比重を上げることは、行政による恣意的な決定がなされるリスクを引き上げ、今後先行企業以外の企業の新規意欲を挫いてしまうだろう。政府はイノベーションを活発化させるために、先行企業の影響力排除こそを行うべきだ。
競争の阻害は国民負担増を招く
そもそも中国が驚異的な規模で洋上風力を急拡大し、買取価格の引き下げにより競争圧力を強めている状況を踏まえれば、わが国が高い買取価格を保証するようなことをしていては、中国企業に対抗したアジア展開など望むべくもなく、国内の限られた内需だけではグリーン成長は画餅に終わるのは確実だ。
結局、国内の洋上風力導入コストも高止まりして、買取価格費用を更に増大させ、国民負担が増すばかりとなる。21年度末までにFITで認定された再エネの導入で30年には最大4.9兆円にまで買取費用は膨らむことがほぼ決定している。更に洋上風力でも手厚い国の支援を望むというのはさすがに国家窮乏策ではないか。
カーボンニュートラル目標を実現するためにはコスト引き下げとグリーン成長は欠かせず、そのためにはイノベーションがカギを握る。政府はイノベーションを支援する姿勢を堅持することが必要だ。