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World Energy Watch

2022年5月23日

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山本隆三 (やまもと・りゅうぞう)

常葉大学名誉教授

NPO法人国際環境経済研究所所長。住友商事地球環境部長などを経て現職。経済産業省産業構造審議会臨時委員などを歴任。著書に『電力不足が招く成長の限界』(エネルギーフォーラム社)など多数。

 ロシアの欧州向け天然ガス供給抑制により、引き起こされた欧州エネルギー危機はエネルギー安全保障の状況を大きく変えた。欧州諸国は今、脱ロシア産化石燃料を急いでいる。欧州委員会(EC)は、既に8月からロシア石炭の禁輸を決め、原油・石油製品についても年内の禁輸を提案しているが、まだ正式決定はしていない。

(NiseriN/gettyimages)

 短期間での脱ロシアが難しい天然ガスについては、ロシアからの輸入量を削減しつつ米国からの液化天然ガス(LNG)などへ供給源を広げているが、エネルギー価格の上昇を招き、欧州諸国は大きなインフレに見舞われている。今は欧州ほどの物価上昇率になっていない日本も、やがて欧州並みの7、8%のインフレ率になるかもしれない。

 依存度が高い天然ガスを含め化石燃料の脱ロシアが欧州連合(EU)の大きな課題だが、ECは脱ロシアを2027年までに実現する具体案を5月18日に発表した。脱化石燃料を図り、50年温室効果ガス実質排出量ゼロを達成する道筋を示す案でもある。

 短期的には、エネルギー消費削減に加え、石炭、石油、天然ガス供給国の多様化、そのためLNG受け入れ基地とEU域内輸送用パイプラインへの投資、中長期的は再生可能エネルギー設備量増だ。今後、主要国で導入増が増加すると考えられている洋上風力設備に加え、新設される住宅、ビルに太陽光発電設備設置を義務付ける政策により、再エネ設備を大きく伸ばすことが謳われている。

 27年までに必要な投資額は、2100億ユーロ(約29兆円)。30年までに3000億ユーロ(約41兆円)が想定されている。当然エネルギー価格を上昇させ、EU市民の生活を圧迫するのではと懸念される。EC案ではエネルギー価格抑制策も織り込まれているが、加盟国の同意は得られるのだろうか。

 欧州主要国が設備容量を大きく伸ばすことを計画している洋上風力については、日本政府も促進地域を定め、長崎県五島市沖などで導入を進めている。しかし、日本と欧州では設備の利用率をはじめ大きく異なる要素が多く、導入が実行されれば国民が困窮することになりそうだ。

簡単ではない脱ロシア化石燃料

 ECが提案したロシア産原油と石油製品の禁輸については、EU内では合意できない状況が続いている。ハンガリーが反対しているためだ。

 パイプラインによる輸送に9割依存しているロシア産天然ガスとの比較では、パイプライン依存度が4分の1程度の原油の禁輸は簡単なようだが、そうではない。天然ガスと同じくパイプライン輸送に大きく依存している国があるからだ。

 冷戦時代、ロシアから天然ガスパイプラインは欧州の西側諸国まで伸びたが、原油パイプラインはハンガリー、東ドイツなど東側の国で留まった。今もパイプライン経由ロシア産原油に依存しているハンガリーは、製油所の能力からロシア産原油に近い品質の原油をどこかの港から鉄道あるいはトラックで輸送することになる。そのコストを考えると脱ロシアは難しいとハンガリー政府は主張し、4年間の猶予と8億ユーロの支援額をECに要求していると報道された。

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