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World Energy Watch

2022年5月23日

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山本隆三 (やまもと・りゅうぞう)

常葉大学名誉教授

NPO法人国際環境経済研究所所長。住友商事地球環境部長などを経て現職。経済産業省産業構造審議会臨時委員などを歴任。著書に『電力不足が招く成長の限界』(エネルギーフォーラム社)など多数。

 脱ロシア化石燃料はエネルギー価格の上昇を招くことになるが、その影響は既に欧州諸国の大きなインフレ率として表れている。

ECの脱ロシア政策でエネルギー価格は高騰

 欧州諸国は、エネルギー価格高騰による高い消費者物価上昇率に直面している。日本でも4月の上昇率が対前年比2.1%とニュースで大きく取り上げられたが、英国の4月の上昇率は9%。ユーロ圏19カ国の上昇率は7.4%に達している。自動車用燃料、電気・ガス料金の上昇が大きなインフレ率を引き起こした。

 ユーロ圏では、エネルギー価格の上昇率が3月44.3%、4月37.5%だ。エネルギー価格の上昇はさまざまな物価にも影響を与える。

 欧州のインフレ率が日本よりも大きい理由は、欧州の天然ガス価格がアジア地区よりも大きく上昇し、2月のロシアのウクライナ侵略により一段と上昇したからだ。今、欧州市場より安いアジア市場向け天然ガスも、欧州諸国が脱ロシアのためLNG購入を進めれば、やがて上昇し、日本も欧州並みのインフレに見舞われる可能性がある。

 救いは、アジア向けLNGについては、価格が原油価格リンクで決められている長期契約比率が高いことだ。長期契約比率は、欧州の2割に対し8割とされている。欧州ほどの値上がりにはならない可能性がある。とは言え、日本は発電量の30%を豪州、インドネシアなどからの輸入炭火力に、40%をLNG火力に依存しているので、電気料金は影響を受けそうだ。

 短期的なインフレ問題よりも、日本はもっと大きなエネルギー価格の問題に中期的に直面する。EUと同じく、日本もこれから洋上風力を推進する計画だ。30年までに1000万キロワット(kW)、40年までに3000万から4500万kWの案件形成が目標とされている。

 導入の結果、日本国民は、ますます貧しくなる。欧州とは洋上風力を取り巻く事情が大きく異なるからだ。

洋上風力で脱ロシアを図るEU

 ECは、化石燃料消費を削減するため、太陽光、風力発電設備、水素利用を大きく増やす計画だ。太陽光発電については、25年から新設ビル、29年から新設住宅での設置を義務付ける計画だが、所得が相対的に低い中東欧の国は、何らかの支援策がないと導入は困難かもしれない。太陽光、風力発電設備を増やすため、認可までの時間の短縮なども提案されている。

 短期的にはLNG輸入を増やす必要があり、ギリシャなどに輸入基地を新設し、また輸送用パイプラインも新設する。脱炭素のため35年にはEU内で天然ガスの使用を止める計画なのに、今から新設するインフラの経済性は全くないように思われる。

 将来は水素利用に転用する前提だろうが、そのままでは使えないとされる。EUはなりふり構わず脱ロシア産化石燃料を図るということだろう。

 欧州諸国が脱ロシアのため一段と力を入れているのが洋上風力だ。英国は、30年に5000万kW。フランスは、35年までに1800万kW、50年までに4000万kWの導入を目標としている。ドイツ、デンマーク、オランダ、ベルギーの導入実績のある4カ国は、30年までに6500万kW、50年までに1億5000万kWの導入目標を先週発表した。

 世界の洋上風力設備導入をリードしていたのは、風況に恵まれる北海、バルト海に面した欧州諸国だった。だが、昨年から様相が変わってきた。昨年世界で導入された洋上風力設備容量2100万kWのうち中国が8割、1800万kWを占め、英国を抑え世界一の導入国に躍り出たのだ(図-1)。設備供給メーカーのシェアも変わり始めた。

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