プラスチックによる環境汚染への対処をめぐり、世界各国は2年近くにわたり、交渉を続けてきた。だが、画期的な国際合意には至らないまま、1日の交渉最終日が過ぎた。
交渉の最終ラウンドとされた会合が、先月から韓国・釜山で開かれ、200カ国以上が参加した。
最終日の1日の協議は深夜まで続いたが、プラスチックの段階的廃止を求める約100カ国と、世界の発展に影響が出ると警告する産油国との深い溝は、埋まらなかった。
ルイス・バヤス・バルディヴィエソ議長はこの日、「いくつかの重要な問題が、包括的な合意に達することを妨げている」と話した。
会合の最終盤でクウェートの交渉担当者は、「この条約の目的はプラスチック汚染をなくすことであり、プラスチックそのものをなくすことではない。プラスチックは世界中の社会に計り知れない利益をもたらしてきた」と述べた。
プラスチック汚染をめぐっては、世界各国が2022年、対処するための世界的な条約が必要だという点で合意。特に海洋環境への影響が深刻だとした。緊急性が高いことから、2年以内に条約を策定すべきだとした。
プラスチックは1950年以降、世界全体で80億トン以上生産されてきた。だが国連の推定では、リサイクルされたのは1割未満にとどまっている。
その結果、何百万トンものプラスチックが世界の海に流れ込み、野生生物や環境に深刻なリスクをもたらしている。鳥や魚、クジラが、プラスチックの破片に絡まって死傷したり、誤飲して飢え死にしたりしている。
プラスチックは主に化石燃料で生産されており、世界の温室効果ガス排出量の5%がプラスチック関連とされている。そのため、プラスチックの制限は、気候変動への対処にも役立つ。
産油国グループが強く反対
会合では多くの問題が議論されたが、特に意見が割れたのは条約案の第6条をめぐってだった。プラスチックの生産削減を約束するのか、リサイクルの取り組みを強化することでプラスチックごみを削減するのかが焦点となった。
イギリス、欧州連合(EU)、アフリカ諸国グループ、多くの南米諸国などの95カ国でなるグループは、生産レベルを下げるため、第6条を法的拘束力のある誓約にすることを求めている。
このグループを代表し、メキシコのカミラ・ゼペダ首席交渉者は、「私たちは、プラスチック汚染の危機から国民と環境を守ってほしいという国民の期待を背負っている」、「その期待に応えるため、私たちは全力を尽くさなければならない」と演説。会場では強い拍手が沸き起こった。
しかし、サウジアラビア、イラン、クウェート、ロシアなどの産油国グループは強く反発した。
各国が電気自動車(EV)のようなクリーンな技術に移行するなか、石油の需要は2026年以降、ほとんどの分野で減少すると予想されている。だがプラスチックは、残された成長市場の一つと考えられている。世界的な生産量の削減目標の設定を産油国が強く懸念しているのは、そのためだろう。
クウェート代表団のサルマン・アラジミ氏は、「プラスチック生産の問題に取り組むのではなく、プラスチックを段階的に廃止しようとするのは、世界の進歩を損ない、経済的不平等を悪化させる恐れがある」と述べた。
インドも、プラスチックの生産削減の約束に懸念を表明。開発への権利に影響が及ぶ可能性があるとした。
環境団体や科学者らは、協議が決裂したことに深い失望を表明するととともに、化石燃料産業の影響力に対して懸念を示した。
シンクタンク「インフルエンス・マップ」によると、今回の条約案について石油化学業界は、企業声明、ソーシャルメディア、相談への回答などを通して、何十回も介入したという。それらの93%は、生産削減の取り組みに反対するものだったという。
一方で、ユニリーバ、マース、ネスレといったプラスチック製品の主要メーカーが世界的な規制を積極的に支持しており、反対の動きを上回る勢いだと、同シンクタンクの報告書は強調した。
各国は来年、再び集まり、合意に向けた交渉を始めるとみられている。
自然保護団体「世界自然保護基金(WWF)」のグローバル・プラスチック・ポリシーの責任者は、規制に前向きな95カ国のグループで独自の条約を策定すべきだと主張している。