ロシアのウクライナ侵略から8週間が経った。侵略以降、欧州連合(EU)27カ国がロシアからの化石燃料輸入に対し支払った額は、370億ユーロ(約5.1兆円)を超えた。EU諸国の昨年のロシアからの化石燃料輸入代金990億ユーロ(約13.8兆円)との比較では、化石燃料価格の上昇を反映し金額は大きく増加している。EUでは、ロシアからの化石燃料輸入の即座中止も議論されたが、「輸入中止がもたらす打撃は、ロシアよりも欧州にとり大きい」と主張するドイツ、ハンガリーが反対し実現しなかった。
昨年から上昇を続けていた化石燃料価格は、侵略後一段と上昇した後下落したが、高止まりしたままだ。欧米日などによるロシアの金融機関に対する制裁で急落したルーブルも、今年第1四半期の貿易・サービス収支の大幅黒字とロシア中央銀行の巧みな通貨防衛策が功を奏し、急激に値を戻した。制裁がロシアの国民生活と経済活動に大きな影響を与えているものの、化石燃料輸出で稼ぐ国有企業への打撃は限られている。
制裁を強化するためには、化石燃料禁輸を行うことが必要になる。欧州委員会は8月からの石炭の禁輸を決めたが、侵略以降ロシアに支払われた石炭の輸入代金は7億8000万ユーロ(約1100億円)。全化石燃料代金の2%に過ぎない。侵略後のロシアへの支払いの約3分の2、240億ユーロ(約3.3兆円)を占めるのは、天然ガス購入代金だ。
EUもロシアに戦費を払い続けることはできないので、脱ロシア産化石燃料の道筋を徐々に付けようとしているが、化石燃料での脱ロシア戦略は鉱物資源での中国への新たな依存を作り出す。加えて、化石燃料に留まらず、全てのエネルギー、つまり再生可能エネルギー、原子力、水素までの価格上昇を引き起こす可能性がある。
われわれは、ロシアあるいは政治体制が異なる中国に資源を依存することのないエネルギー政策を練る必要がある。脱ロシアは簡単には進まない。
制裁には化石燃料輸入禁止が必要
ロシア中央銀行が発表した今年の第1四半期の経常収支の黒字額は、昨年同期の2.5倍を超える582億ドル(約7.4兆円)に達した。記録が残る1994年以降最大の四半期黒字額と報道された。
経常収支の黒字を支えたのは昨年から高騰している化石燃料価格だ。貿易・サービス収支の黒字額も過去最高の663億ドル(8.4兆円)に達している。
ロシアへの支払いがウクライナ侵略の戦費を助けることになることから、EU内ではロシアからの化石燃料輸入の禁止が議論されたが、合意には達しなかった。そんな中、欧州委員会はエネルギー供給に占める比率が相対的に低い石炭を対象にロシアからの輸入禁止を提案した。
提案では3カ月の猶予期間を置き輸入禁止となっていたが、ロシア炭輸入量の多いドイツが3カ月の期間に反対し猶予期間を4カ月に修正させ、8月からの禁輸が決まった。さらに、天然ガスとの比較では影響が少ない原油・石油製品の禁輸が議論されたが、EU内では合意をみていない。