長らくデフレにあり、今でもデフレであると信じられている日本経済は、コロナ禍によるグローバルサプライチェーンの混乱からの回復途上にあることに起因した世界的な供給減、一方でコロナ禍からの回復による世界的な需要増、脱化石燃料の趨勢を受けた原油価格の高騰、ロシアによるウクライナ侵攻、内外金利差拡大による円安の急進など、複合的な要因により、実は既にインフレ局面に転換している。
総務省統計局「消費者物価指数」によれば、菅義偉前政権による携帯料金引き下げによる物価抑制効果を除いた生活実感に近いインフレ率は2%を超えている。
すべてのインフレは悪である
インフレは他の条件が一定であれば私たちから購買力を奪い、私たちを貧しくする。その点では、あたかも良いインフレが存在するかのような言説はミスリーディングであり、インフレに良いも悪いもなく、全てのインフレは悪である。
いま私たちの財布の中に一万円札が1枚あるとしよう。この時、私たちの身の回りにはリンゴしか存在しないとする。
リンゴしか存在しないので、リンゴの価格100円がすなわち物価水準とイコールであり、物価水準は100となる。したがって、私たちの1万円札では10000÷100=100でリンゴを100個買える。これがリンゴで測った1万円札の実質価値=購買力である。
いま、リンゴが値上がりし200円になったら、1万円札の購買力は10000÷200=50と、1万円札の購買力は100から50に半減する。
この仮想的な社会ではリンゴしか存在しなかったので、リンゴで1万円札の実質価値を測れたが、現実には、リンゴ以外にもミカンとかナシとか沢山の財やサービスが存在する。お金の実質価値=購買力は、個々の価格で測るのではなく、沢山の財やサービスの価格を合成した物価指数=消費者物価指数によって測定することになる。