電気料金の上昇が続いている。東京電力管内の標準的な料金は1年間で約30%上昇した。大手電力会社の料金体系によっては、燃料費の変動を料金に反映させる燃料費調整制度が設けられている。
大半の電力会社では調整制度で設定されている上限額に達しているため、今後電力会社が石炭、液化天然ガス(LNG)などの価格上昇分を負担することになる。同様の制度を導入している新電力と呼ばれる電力小売会社も同様の負担を迫られる。
燃料価格上昇と円安により大手電力会社の4~6月決算では、大半が赤字になった。新電力の中には事業から撤退する企業もある。
電気、ガスなどの社会インフラを提供する企業の経営が不健全な状況になれば、安定供給が脅かされる。経営の健全化を図るため、家庭用、産業用電気料金体系の見直しが始まっている。消費者が安定的に供給を受けるためには料金体系の見直しは止むを得ないだろう。
日本の電力供給の40%はLNG火力、30%は石炭火力、5%は石油火力だが、日本よりも化石燃料による発電比率が低い欧州諸国の電気料金は、日本以上の値上がり率になっている。化石燃料価格の上昇速度が日本より早いからだ。天然ガス・LNGの購入形態が、日本と異なり長期契約ではなく、都度価格を交渉するスポット契約が主体との理由もある。
日本向け化石燃料価格も、欧州諸国が脱ロシア産化石燃料を実行する過程で影響を受け、これからも上昇を続けるだろう。電気、ガス料金も上昇し、物価にも影響を与える。
そんな中、今年末に3基の原発を停止し脱原発を実行するドイツでは、脱ロシア産化石燃料を実行するため、また温暖化対策のためにも原発の継続利用を求める声が、ロシアによるウクライナ侵攻後ほぼ3分の2を占めるようになった。
それでも、経済・気候保護大臣、環境大臣を送り込んでいる緑の党を含む3党連立政権は、脱原発に踏み切る可能性があるとみられている。もし、ドイツが脱原発に踏み切れば、原子力の発電量の落ち込みを補うため天然ガスと石炭の購入量増が必要になる。
世界の化石燃料市場には上昇圧力を与え、日本の購入価格も影響を受ける。途上国を含め世界中に迷惑をかけるが、それでも脱原発を行うのだろうか。
EUとロシアの腕相撲で上昇する化石燃料価格
欧州では天然ガスの不需要期になったが、欧州連合(EU)諸国はロシアからの天然ガス供給量を今年中に3分の1まで削減することを目標に、冬季の需要期に向け貯蔵量の積み増しを図っている。欧州委員会は、11月に貯蔵設備能力の80%まで積み上げることを加盟国の目標としている。
8月1日時点ではEU27カ国貯蔵能力の69%。年間消費量の2.2カ月分まで積み上がっているが、国によりバラつきがあり、最高はポルトガルの100%、最低はブルガリアの48%。
ドイツのレベルは69%だが、消費量では年平均のちょうど2カ月分になっている。ただし、冬季の消費量は年平均を大きく上回るので、万が一ロシアからの供給が全て絶たれれば、貯蔵量だけで冬場を乗り切るのは難しく、仮にこの冬を乗り切れても在庫量が底を尽くことから来年の冬に問題を生じると言われている。