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World Energy Watch

2022年8月5日

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山本隆三 (やまもと・りゅうぞう)

常葉大学名誉教授

NPO法人国際環境経済研究所所長。住友商事地球環境部長などを経て現職。経済産業省産業構造審議会臨時委員などを歴任。著書に『電力不足が招く成長の限界』(エネルギーフォーラム社)など多数。

 欧州内で進むロシアからの天然ガス購入量削減の動きに先んじて、ロシアはEU向け天然ガス供給量を削減している(図-1)。ドイツ・ハーベック経済・気候保護相は「EUとロシア・プーチンとの腕相撲」と表現しているが、EUとロシアが腕力を見せ合っている状況だ。

 EUはロシア依存度を下げることにより、ロシアは供給量を削減することにより力比べをしている。今優勢なのは供給量の削減を続けているロシアだ。供給量削減によりEUの多くの国は冬季の暖房を心配しなければいけないが、天然ガスと石炭の単価が大きく上昇したため、ロシアが金銭面で受ける痛手は小さいように見える。

欧州の天然ガス価格は日本の3倍超に

 6月7日の米国フリーポートLNG輸出基地の爆発事故と、直後にロシアが天然ガスをドイツに送るノルドストリーム1パイプライン経由の輸送量削減を発表したことを受け、欧州の天然ガス市場での取引価格は2倍以上に急騰し、今も高止まりしたままだ。

 欧州の天然ガス取引価格指標を代表するTTF市場の価格は、2年前、2020年7月末にはメガワット時(MWh)当たり5.22ユーロ。昨年からのエネルギー危機により、米国輸出基地の事故直前の価格は79.61ユーロに上昇していたが、事故とロシアの供給量削減を受け8月1日の価格は200.79ユーロ。LNGに換算すれば、トン当たり約2500ユーロになり、日本着価格の3倍を超えている。

 EUのロシアからの輸入量削減努力に先んじて供給量を削減し価格を上昇させるロシアの戦略に、今までは分があった。ただし、8月中旬、ロシアからの石炭禁輸がEUにおいて開始され、EU加盟国が歩調を合わせ脱ロシア戦略を加速する過程では、腕相撲の勝ち負けは逆転するかもしれない。

天然ガス消費量削減に歩調を合わせるEU諸国

 EU27カ国は、7月26日、今年8月から来年3月にかけ過去5年間平均の天然ガス消費量を15%削減することで合意した。26カ国が賛成票を投じ、ハンガリーのみが反対した。

 5日間に亙った関係大臣による交渉の結果だが、合意前日まで地中海諸国が反対を表明していた。大規模LNG輸入基地を保有し、ロシア依存度の低いスペイン、ポルトガルは削減の必要性なしとし、天然ガスによる発電比率が高いイタリアとギリシャは、電力供給に支障を生じるとして反対を表明していた。

 各国の合意を得るために、欧州委員会の当初案にあった15%削減に強制力を持たせる条件は削除された。強制的に削減を実行する際には再度投票が行われる。

 夏季からの消費量削減により冬季の需要期に向け在庫を積み増すことも目的だが、共同での消費量削減により最もメリットを受けるのは、天然ガス使用量が多い産業部門を抱えるドイツになる。欧州内では「ドイツを助けるからには、ドイツは化石燃料消費量を増やすことになる脱原発を中止すべき」との声が聞かれ始めた。

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