ドイツ国内の多くの世論調査ではおよそ3分の2が原発の活用に賛成を表明する大きな変化が起こっている。それでも、ドイツ政府の態度は不透明だ。
何が何でも脱原発の緑の党と利用求める国民
ドイツ国民の原子力発電に関する態度は、欧州の他国の国民よりも否定的と言えた。例えば、福島第一原発事故の後、2011年11月に英BBCが主要国で行った世論調査では、ドイツのみ即座の閉鎖が過半数を超えた。
20年前の02年に、当時の社会民主党と緑の党の連立政権は、稼働している19基の原発を21年までに全て廃止することを決定した。その後05年から政権を担ったキリスト教民主同盟(CDU)を率いるメルケル前首相は、10年に02年の脱原発の決定を無効にし、原発の利用継続を決めた。
しかし、11年の福島事故後の世論の変化を受け、メルケル政権は22年末までにすべての原発を段階的に閉鎖することを決め、今操業が行われている原発3基は今年末に閉鎖する計画になっている。
ロシアのウクライナ侵攻によりロシア産化石燃料削減を迫られることになり、3月ハーベック経済・気候保護相とレムケ環境・自然保護・原子力安全・消費者保護相が脱原発政策の見直しを議論した。その結果、燃料手当の問題などの理由により脱原発政策を変更しないことが確認された。
脱原発を旗印として掲げる緑の党出身の大臣2人が議論しても脱原発政策は変わることはないとの下馬評通りの結論になった。実務上の問題から脱原発政策の中止は困難との発表に対しては、ドイツの原発関連業界やCDUからは原発の稼働延長は可能とのコメントも出ている。ただし、決断が遅くなれば延長は難しいとの注釈付きだ。
ドイツでは、ロシアからの天然ガス供給に不安が生じ、脱原発政策の見直しを求める世論が強くなったこともあり、再度脱原発政策の見直しが検討されることになった。ショルツ首相は、安定供給、電力価格に関するストレス・テストの結果を受け、数週間以内に結論を出すとしている。世論では脱原発の中止が多数派になっているが、支持政党別では大きな違いがある。
今年4月から6月にかけて行われた世論調査では、支持政党により意見に大きな差があることが浮き彫りになった(図-2)。21年春の調査では、緑の党支持者の70%が原発の継続利用に反対、22%が賛成だったので、同党支持者間でも反対は減少しているが、依然として56%を占めている。
経済、環境大臣を送り込む緑の党が脱原発を中止することがあるのだろうか。仮に、ドイツが脱原発政策を堅持し、実行すれば、日本を含む世界の多くの国がさらなるエネルギー価格の高騰に直面することになるだろう。