2022年8月11日(木)

World Energy Watch

2022年8月5日

»著者プロフィール
著者
閉じる

山本隆三 (やまもと・りゅうぞう)

常葉大学名誉教授

NPO法人国際環境経済研究所所長。住友商事地球環境部長などを経て現職。経済産業省産業構造審議会臨時委員などを歴任。著書に『電力不足が招く成長の限界』(エネルギーフォーラム社)など多数。

脱原発政策の余波は化石燃料価格に

 図-3が日本とドイツのロシア産化石燃料依存度を示している。日本の一次エネルギーの6%がロシアから供給されている。ドイツの一次エネルギーにおけるロシア依存度は29%。発電用が主体の一般炭需要量の70%、天然ガス需要量の52%をロシアに依存していたが、脱ロシアを進めているので、その比率は今は減少している。

 ロシア産エネルギー輸入量を削減するため、EUでは省エネ、節電努力も行われているが、それで脱ロシアが可能になる訳ではなく、ロシア以外の国からの購入量も増やすしかない。石炭では、豪州、米国、南アフリカなどからの購入量が増えている筈だ。例えば、日本の一般炭の7割を供給している豪州にドイツをはじめとする欧州諸国が調達に向かうと、需給バランスが崩れ大きな価格上昇を引き起こす。

 8月中旬からのロシア産石炭禁輸に先立ちEU諸国が石炭購入に走ったため、石炭価格は急騰している。日本向け一般炭価格も大きく上昇し、発電のための石炭の燃料コストが史上初めて天然ガスを上回った(図-4)。これから、一般炭価格は電気料金をさらに上昇させることになる。

 そんな中、ドイツが脱原発を実行すると、発電用の石炭と天然ガスの需要量が増えることになり、石炭とLNG価格の引き上げを加速することになる。今年前半のドイツの3基の原発の発電量は159億キロワット時(kWh)だった。

 年間で約320億kWhの発電量と想定すると、この発電量を賄うために必要な石炭の量は年間1000万トン以上。LNGであれば400万トンを超える。

脱原発で停電する途上国

 英米がロシア産化石燃料の禁輸に踏み切り、EU、日本がロシア産化石燃料の購入削減を図る中で、これだけの数量の追加調達が行われると、当然価格に影響が出る。

 結果、化石燃料を輸入している全ての国が影響を受ける。1億5000万トンの石炭を輸入している東南アジア諸国、2億トン以上の輸入を行っているインドのみならず、LNG輸入を行っているパキスタン、ブラジルなども影響を受けることになる。高値での燃料購入は、電気料金上昇を引き起こすが、あまりの高値になると途上国によっては必要量を購入できず停電を引き起こすことになるだろう。

 途上国にも大きな迷惑をかける脱原発政策をドイツは実行するのだろうか。ロシアに戦費を渡さないために、脱ロシア政策による化石燃料価格、電気料金上昇を甘んじて受ける人のうち、脱原発による化石燃料価格上昇により高騰する電気料金に納得する人はどれほどいるのだろうか。

編集部からのお知らせ:本連載でも鋭く日本のエネルギー政策に切り込んでいる山本隆三氏が著書で、ロシアのウクライナ侵攻に関わるエネルギー問題など、わかりやすく解説しています。詳細はこちら
 
 
 『Wedge』2021年11月号で「脱炭素って安易に語るな」を特集しております。
 地球温暖化に異常気象……。気候変動対策が必要なことは論を俟たない。だが、「脱炭素」という誰からも異論の出にくい美しい理念に振り回され、実現に向けた課題やリスクから目を背けてはいないか。世界が急速に「脱炭素」に舵を切る今、資源小国・日本が持つべき視点ととるべき道を提言する。
 特集はWedge Online Premiumにてご購入することができます。

  
▲「Wedge ONLINE」の新着記事などをお届けしています。

関連記事

新着記事

»もっと見る