2024年4月19日(金)

World Energy Watch

2022年8月18日

 EUでは昨年も化石燃料の消費が拡大したという事実がある。21年と22年の第一四半期を比べてみると、この1年間で化石燃料(石炭・褐炭・ガス・石油)による火力発電は17TWh増加している。もっとも風力と太陽光を中心とする再エネによる発電量はそれ以上、30TWhと化石燃料の倍近く伸びており、それぞれ16TWhと28TWhと大きく落ち込んだ原子力と水力の発電量の減少を化石燃料と風力・太陽光でカバーする形であった。

 したがって再エネを主力にした電源構成へと変えていく流れが止まったわけではないが、ウクライナ侵攻の影響がなかった昨年に化石燃料の消費が増えた原因は何なのか、まずこの点について分析してみよう。

存在を糾弾されても欧州電力需給を支えたのは化石燃料

 図1は19年以降のEUの国々の月次発電量を電源別に示したものであるが、折れ線に注目頂きたい。黄色の折れ線は再エネの発電量が全体に占める比率を示しており、一見して変動が大きいことが分かる。

(出所)Quarterly report on European electricity markets_Q1 2022 写真を拡大

 高い月には全体の45%を超える水準の発電量となっていることもあれば、低い月には30%近い水準まで落ち込んでいることもある。月次で15ポイントもの変動幅はかなり大きなものと言えるだろう。

 ちなみに化石燃料の比率を示した茶色の折れ線も同様に大きな変動を示しているではないかという人がいるかもしれないが、これは再エネの出力変動に対応して化石燃料電源が出力を調整しているためであり(したがって逆相関している)、本来化石燃料は一定の安定した出力で発電することが可能である。

 わずか3年間のデータであるが、よく見ると一定の季節性を見出すことも出来そうだ。夏に入る前に再エネの比率は上昇し、夏から秋にかけて低下、冬になると再び上昇するというものである。この季節性の原因は毎年夏になると水力と風力が発電量を減らすからだ。太陽光は夏に発電量を増加させるが、EUでは風力に比べ、太陽光の発電能力が小さいので風力の減少を補う役割を果たすには力不足である。

 特に注目したいのは21年9月に大きく再エネの発電量が減少していることである。水力が大きく落ち込み、風力も6月ほどではないが、かなり低い出力である。翌10月に風力はかなり回復するが、太陽光が落ち始め、11月は再び再エネ全体の発電量は減少する。

 何故この時期に注目するかと言えば、まさにこの時、英国グラスゴーでCOP26が開催されていたためである。COP26の会場では化石燃料が糾弾され、悪の元凶のような扱いを受けていたが、その時欧州で深刻な停電が発生しなかったのは、出力を出せず電力の安定供給の責務を果たさない再エネの抜けた穴を化石燃料が埋めていたからだ。21年11月の化石燃料の比率はこの3年間で最も高い水準に達していた。

 欧州の昨年の状況を見ると、出力変動の激しい再エネは年次というスパンで見れば発電量を増加させていても、より短い期間、すなわち月次や日次で見ると必要な出力をきちんと発電できないケースがあるというのが現実だと分かる。

 電力という社会経済にとって極めて重要な財は安定供給されるべきで、供給途絶などがあってはならない。それを前提とすると、再エネは出力変動を埋め合わせてくれる電源なしでは自ら拡大を続けていくことはできないということになる。

 その点を考えれば、30年に電力の80%を再エネによる発電でまかなうというドイツの目標は果たして技術的・経済的に可能なのかという疑問がぬぐえない。再エネの比率を引き上げれば上げるほど、出力低下時の調整電源の容量も大きくなる。分単位で出力調整できる電源としては火力が現実的な選択肢となるが、火力にとっては図1に示されているように稼働率が大きく変動する運用を強いられ、採算性が大幅に悪化するという問題がある。


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