2024年4月25日(木)

World Energy Watch

2022年8月18日

肝心な時に責任を果たさない太陽光

 今年4月に公表した論稿「これぞ亡国の道 再エネは日本の主力電源にはならない」で、「『化石燃料見直しの』バスに乗り遅れるな」と書いたが、欧州で相次ぐ石炭火力の見直しは当時の見通し通りの展開だと言える。そしてこの潮流はウクライナ侵攻によって生じただけではなく、再エネの電源構成に占める比率が上昇してきたことの副作用が隠れているというのが上の分析の示唆するところである。

 他にも根拠を挙げれば、EUがEUタクソノミー(グリーン事業への投資基準)に、原子力と天然ガスを含める方針を昨年12月に立案し、ウクライナ侵攻が現実化する前の2月2日に欧州委員会(EC)が承認したことなども指摘できるだろう。これは昨秋の風力の出力低下による電力危機を踏まえての対応だと考えるのが自然だ。

 したがってわが国も欧州発の急進的な脱炭素に盲目的に追随して打ち出した再エネの主力電源化という方針を見直し、火力の果たす役割を再評価すべきと考える。なお、火力ではなく、蓄電池を合わせて導入することで解決できるという言説も目にするが、コスト面から全く現実的ではない 。大まかな試算だが、太陽光が十分に発電できない時間に東京電力管内1700万世帯への電力供給を蓄電池でまかなおうとすれば7兆円ほどの投資が必要となり、同じ金額で557倍の出力のLNG火力を建設することができる。そして蓄電池の寿命は発電所よりもはるかに短い。

 わが国は再エネの比率を引き上げようとすると欧州の国々よりも副作用が大きいという点も留意すべきである。欧州は風力の比率が高いが、わが国では風力の導入ポテンシャルには自然条件から大きな制約がある。そのため現状でも、そして将来計画でも、太陽光が主力と想定されている。しかし太陽光の出力変動(間欠性)は風力よりもはるかに大きい。

 この夏も電力需給の逼迫が大きな問題となっているが、本当の危機は冬にやって来る。それは太陽光主体で再エネの主力電源化を進めてきたことが大きな要因となる。

 夏は日差しと電力需要とが正の相関にあるが、冬は気温が下がる(日差しが弱い)と電力需要が増える逆相関となるため、太陽光は夏以上に肝心な時に役に立たない。今年3月に停電間際まで追い込まれた電力危機を改めて思い起こしてみよう。

 危機に陥ったのは3月22日で、同月16日深夜に発生した福島沖地震により6基の火力発電が停止中で、そこに冷雨の天候条件が重なり暖房需要が高まる中、脱落した火力の330万キロワット(kW)分を埋めるのが容易ではない状況、というのが基本的な構図であった。東京電力管内の太陽光の発電出力は正午にこの日最大の179万kWを記録した後は出力低下に向かい、この日の太陽光の貢献率はピーク時でも4%に過ぎない。一日の発電量全体で見ると太陽光の比率はわずか1.7%に過ぎず、代わりに液化天然ガス(LNG)火力が66.8%と圧倒的な主力電源の役割を果たし、次いで石炭火力が11.1%であった。

 問題なのは、その前日、天候が春の陽気で良好であった(したがって暖房需要は小さい)3月21日の太陽光は1256万kWの発電出力で全体の40%を占め、まさに主力電源として振舞っていたということだ。調子のよいときは好きなだけ発電し、火力はそのあおりを受けて出力を抑制せざるを得ず、採算性の悪化を甘受させられる。

 そのくせ22日の肝心な時には何ら責任を果たさず、電源確保に必死の送配電事業者を横目に涼しい顔をしていたわけだ。こんな太陽光を主力として信頼することはできるだろうか。

 この現実を見ると、このまま再エネを主力電源化することの安定供給上のリスクと火力の採算性悪化も含めた割高な経済的コストから、方針転換するべきだというのが自ずと引き出されてくる結論ではないか。ウクライナ侵攻で化石燃料の地政学リスクは顕在化したが、地政学リスクはあくまで確率的に生じるリスクであるのに対し、再エネの導入拡大はリスク(可能性)というより技術的特性から生じるバグ、エラーというべきものだ。再エネの導入拡大は化石燃料の地政学的リスクよりもはるかに高い頻度で危機を発生させるのが必定である。

欧州の猿まねでなく、国益を見据えたエネルギー政策へ

 わが国のこれまでの脱炭素に偏重したエネルギー政策は果たして国益を見据えた戦略に裏打ちされたものだっただろうか。欧州が国益優先の姿勢を隠すことなくエネルギー政策を変更しているいまこそ、わが国の国益にかなうエネルギー政策はどうあるべきか、冷静に振り返ってみる必要がある。

 筆者には、これまでのわが国のエネルギー政策は海外の(実際には欧州の)潮流だからというだけで無批判に、再エネ主力電源化を柱とした内容で打ち出してきたように見える。しかし風力でなく太陽光を中心に再エネを導入せざるを得ない国土条件、送電網が各国で連携している欧州と異なる自己完結型の電力系統、この2点だけを考えてもわが国で再エネの主力電源化を進めることのコストとリスクを考えるべきではなかったか。脱炭素は重要だとしても、そこに至る道は各国の事情に応じて異なる道筋であってしかるべきではないか。


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