2024年4月20日(土)

World Energy Watch

2023年4月4日

 以上のような現状を踏まえれば、G7において石炭火力撤廃の期限を30年までと定めたとして、欧州の国々が実現できるのかどうかは甚だ疑問である。出力変動の大きな再エネの比率をこれまで以上に引き上げていくことと、火力の比率引き下げを同時に行おうとするなら、蓄電池のような出力変動の調整手段が必要となるが、経済性の面から負担可能な水準になる時期は現状見通せず、少なくとも30年までにとは到底あり得ないだろう。

 また水力が想定通りの出力を出せない事態はここ数年だけの特殊な状況とも考え難く、今後も発生することになりそうだ。気象条件悪化などによる突発的な出力低下をカバーできるのは柔軟に出力調整できる火力発電であり、再エネでは難しい(そもそも自らが火力の柔軟性におんぶにだっこの状態だ)。

 そして石炭火力を撤廃してガス火力だけでその任を担わせるとして、ガス価格が高止まりした場合に本当に可能なのか。世界のガス供給の主軸を担っていたロシアが30年までに市場復帰する可能性は非常に低いだろう。それなのに欧州が煽っている脱炭素キャンペーンで、石炭はもちろん、石油・ガスの上流投資は16年以降冷え込んでおり、ロシア以外の供給能力の増強にも期待できない。

 そのような状況の下、石炭排斥で代替としてガス需要が伸びた場合、ガス価格の更なる上昇が予想される。その場合に、ガス火力だけで必要な調整力を担うことは家計や産業に与える経済的打撃を考えると可能とは思えない。欧州の国々で昨年、エネルギー高騰に反発するデモが頻発し、各国政府もさまざまな補助金でなだめようと必死だったことを想起すれば尚更である。

途上国が見透かす欧州の欺瞞

 つい最近EUは、2035年に電気自動車以外の自動車の販売を禁止するとしていた従来の目標をe-fuel(再エネ由来の合成燃料)を使用するエンジン車についても販売を認めると修正した。電気自動車は中国勢と米国のテスラが気を吐く現状で、欧州自動車メーカーの立ち入る余地はなさそうである。そのためドイツやイタリアなどが国内の自動車産業の衰退を懸念して目標の「下方修正」を求めたということのようだ。いずれガソリン車も何らかの形で販売が認められるまで目標は「下方修正」されるという見方もある。

 筆者はこうした欧州の現実路線への転換(敢えて変節とは呼ばない)は歓迎すべきことだと考える。そもそも気候変動の国際交渉における極度に理想主義的で現実性を欠いた欧州の態度が問題であり、実際、途上国は反発を露わにしている。

 COP27ではインドが、カーボンニュートラルを言うのであれば石炭だけでなく、全ての化石燃料の段階的削減をすべしという趣旨の声明を出し、環境保護団体などは大いに沸き返ったようだ。しかしインドの言わんとすることは、自分たちはちゃっかりガスへと転換した上で、石炭を悪の元凶のようにしてこき下ろして途上国にも石炭撤廃を迫ってくる欧州に対する当てこすりと捉えるべきだろう。

 ガスは途上国にとって高価なエネルギーであり、多くの途上国が経済成長を実現するために石炭が果たすことのできる役割は依然として大きいのである。COP27ではインドに限らず多くの途上国から、欧州が化石燃料を爆買いし、化石燃料の価格を高騰させた結果、例えばパキスタンやバングラデシュでは停電が頻発するなど、途上国のエネルギー調達を困難に陥れたと、非難の声が数多く上がった。

 COP27は先進国と途上国の断絶が明白で、最終結果は途上国の勝利とする論評は多い。経済成長を気候変動よりも優先、気候変動への取り組みは先進国による経済支援が大前提、別に気候変動で途上国が被ってきた被害も補償、という途上国のスタンスがほぼ認められる結果で終わった。欧州が必死に押し込もうとした、気温上昇を1.5度以下に抑えるために温暖化ガスを更に排出削減する対策強化の提案は黙殺された。

 それなのに相も変わらず理想論を振りかざし、非現実的な目標を言い募るばかりか、途上国にも無理な対策を講じるよう圧力をかけることは分断を更に広げるだけだ。欧州の電力供給の現状を見ると、今回のG7で30年までの石炭火力撤廃を打ち出すことは電気自動車の目標「下方修正」と同様の無責任な結果となる可能性が高いというのが本稿の見立てである。そうなったら欧州、ひいては先進国への途上国の視線は一層厳しいものになるだろう。


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