とは言え、石炭火力による発電量が前年比マイナス成長となったのは15年のみであり、一次エネルギー需要のみならず、電力に絞っても再エネの急成長だけでは需要の増加分すべてをまかなうことが出来なかったことを意味する。すなわち再エネによる石炭火力のphase outはおろかphase downすら実現できなかったというのが現実である。再エネの間欠性という運転特性から、例えば太陽光は夕方以降は全く発電できなくなるわけで、その出力消失をカバーする電源として石炭火力が役割を果たしてきたということである。
中国のエネルギー構造におけるアンカーとしての石炭
以上のように、中国の今後の石炭需給を考える上で、①発電・熱供給「以外の」石炭需要は中国の石炭消費量の45%程度を占め、こうした石炭を直接利用する需要については再エネをはじめとする非化石エネルギーでは代替が容易でなく、②電力についても再エネの急激な導入拡大にもかかわらず、石炭火力の発電量が前年比でマイナス成長となったのはわずか1年だけで、再エネの出力低下時のカバー電源として化石燃料の中でも中心的な役割を果たしてきた、という点を踏まえなければならない。24年以降は再エネの供給増で石炭消費量は減少していくとするIEA見通しに根拠があるのか疑問に思う。
確かに、化石燃料消費が減らなかったのは、これまで再エネによる発電量の増加を上回ってエネルギー需要全体が成長したことが原因であり、中国経済の不振でエネルギー需要全体が低迷すれば再エネの発電増だけでまかなわれ、化石燃料の需要減につながる可能性もある。しかし近年導入されている再エネの重心が風力よりも出力変動が極めて大きく稼働率も低い太陽光に傾倒していることを考えれば、依然としてカバー電源としての化石燃料の需要は底堅いと考えられる。
そもそも中国経済の不振が続いた場合に、再エネに対する投資がこれまでの成長率を維持できるかどうかも疑問である。既存の再エネ設備は以前と異なり、出力抑制をほとんど受けておらず、新規導入の拡大がなければ再エネの発電量の増加は期待できない。
そうすると、石炭需要の今後は化石燃料間の競合性次第ということになる。特にガスとの競争ということになるが、米国と異なり、中国では石炭はガスよりも大幅に経済性に優れており、ガスは発電にも一部利用されているものの、都市ガスや製造業用途が中心である。
中国経済の不振はむしろ経済性に優れた石炭がますます選好されることになりそうだ。先の図を見ると20年と21年は火力の稼働率はわずかながら上昇しているが、これは主に水力が渇水により稼働率を低下させたため、水力の出力低下を石炭火力が埋め合わせたことによる。
中国政府は13年から21年までの性急な脱石炭路線を修正したことで、22年のウクライナ戦争に始まる国際エネルギー市場の波乱による打撃を中国は大幅に抑えることができた。経済性や供給安定性という観点で中国政府は石炭の重要性を再評価しており、まだ当面は石炭を活用し続けていく可能性が高い。
こうした点を考えると、元々非現実的な目標を巡ってphase out か、phase downか、あるいはtransition awayか、などと言葉遊びを繰り広げるのではなく、石炭をはじめとする化石燃料の「低」炭素化をまずは進めつつ、中国そしてインドが現実的に導入可能なスケジュールでの化石燃料からの移行と具体的な国際協力の内容こそ、COPで話し合うべき事柄である。ましてや加盟国の自己アピールに終始し、非加盟国に圧力をかけるだけで建設的な提案をすることもないPPCAのような組織は有害無益である。