運用あるいは設備製造に関する雇用は限定的だ。日本で洋上風力設備導入を進めても建設が終われば、ほとんどの雇用はなくなる。世界の洋上風力発電設備の6割から7割は中国、残りの大半は欧州で製造されている。製造に係る雇用は日本では期待できない。
上昇する洋上風力の発電コスト
米国東海岸、欧州北海での洋上風力発電開発事業では、昨年から事業者の撤退が続いている。理由は、インフレによる資機材費の値上がりと金利上昇だ(「そして誰もいなくなる 死屍累々の欧米の洋上風力事業者」)。
今年になっても逆風は続く。英国の石油大手BPのグループは米国東海岸ニューヨーク州沖の事業で発電される電気の買取価格の値上げを要求していたが、州政府は拒否した。BPはついに撤退を決めた。
当初の契約価格は、1キロワット時(kWh)当たり約11セント(約17円)だった。その金額でも米国の火力発電所の発電コスト4セントから5セントの倍だが、BPの要求した見直し額は、最大19セント(29円)を超えていた。
昨年の洋上風力発電事業の入札への応札者がゼロだった英国では、今年の入札では上限価格を大幅に引き上げる発表があった。着床式と浮体式の上限価格は、それぞれ73ポンド/MWhと176ポンド/MWhだ。2012年価格なので、現在の価格にし、円にすると19円/kWhと46円/kWhだ。
日本の大手マスコミでは、再生可能エネルギー事業者の立場を支援する記事が多い。洋上風力導入のためには英国の入札価格の引き上げは当然とする記事がある。あるいは太陽光設備の発電量が増えるために実施される出力制御は、事業者の収益を圧迫し再エネ導入を難しくしているとの記事もある。
再エネ導入は、電気料金を上昇させ消費者負担を増やすが、消費者よりも事業者を応援するほうが、読者獲得につながるのだろうか。
考えるべきは消費者負担
ニューヨーク州、マサチューセッツ州など米国東部の州がコストの高い洋上風力導入に踏み切る理由は、州政府が脱炭素を宣言しており、実現のための方策があまりないからだ。それでも、再エネ導入を支援する額は電気料金を通し消費者負担となるので、ニューヨーク州は金額の見直しを拒否した。
日本の昨年の洋上風力発電事業の入札では、卸価格と同額での入札も行われたが、現在の資材価格と建設費の上昇を考えると、欧米との比較では、風が吹かない日本の洋上風力の発電コストが欧米以下になることはないだろう。やがて、消費者負担の形で電気料金に反映される。
大手新聞は、出力調整がされない原子力発電の再稼働により再エネ電源の出力制御が増えたと非難するが、消費者の視点ではまったく別の姿にみえる。
冷暖房需要が少ない春秋の電力需要は少なくなる。しかし、太陽光、風力の発電量は需要に合わせ調整できない。このために実施されるのが出力制御だ。
九州電力の秋の需給をみると、太陽光の発電だけで需要の大半を満たすことが可能だ(図-4)。太陽光発電を受け入れるため、火力発電所を止めると、再稼働に数日必要になり、夜間の供給に問題が生じるかもしれない。原子力発電は定格で運転される。そのため太陽光設備の発電量を制御し、火力と原子力の運転を確保する。
再エネ事業者の利益は減るが、再エネの電気を買い取る必要がないので消費者の負担額も減る。原子力発電所が再稼働している九州電力の規制料金は、大手10電力会社中最安値だ。原発の再稼働は電気料金を下げているが、報道で触れられることは少ない。