「脱炭素のためには電源から」と考える主要国は、再生可能エネルギー(再エネ)、原子力の非炭素電源の導入に力を入れている。中でも多くの主要国が力を入れているのは洋上風力だ。
今年5月に広島で開催された主要7カ国首脳会議(G7)の声明には、2030年までに1億5000万キロワット(kW)の洋上風力の増設が盛り込まれた。22年末のG7国の2300万kWの設備容量は約8倍になる計画だ。
洋上風力設備導入で先行している欧州諸国と中国に追いつけとばかりに、日本も米国も大規模開発に乗り出したが、早くも躓いた。
日本では日本風力開発の贈賄疑惑だ。この事件は、電気料金を通し消費者が負担する再エネの付加金額に影響を与えた可能性があるが、洋上風力事業のコストに影響を与える事案ではなかった。
一方、米国では洋上風力の事業者が締結済みの風力発電設備の売電契約書を違約金の支払によりキャンセルしたり、事業から撤退している。原材料費、工事費、金利の上昇により当初予定した売電価格では事業の目途が立たなくなったためだ。
欧州でも事業に逆風が吹いている。スウェーデンの大手エネルギー企業は世界で最も風況が良いとされる欧州北海の事業を中断した。
新規事業でも英国政府による事業者募集の入札に応募者が現れなかった。コスト上昇により、入札条件では採算が確保できないと事業者が判断したためだ。
洋上風力設備を製造している欧米メーカーも原材料費の値上げに加え発注減に見舞われ青息吐息だ。中国メーカーとの競争激化もある。欧州委員会は加盟国に対しメーカーの支援を要請した。
再エネのこれからの主役になるはずだった洋上風力事業の先行きはバラ色どころか世界中で茨の道になってきた。これからどうなるのだろうか。
中国で拡大する洋上風力
風力発電は、太陽光との比較では利用率も高く、面積当たりの発電量も大きくなる。洋上風力は陸上風力との比較では風況が良く、同じ設備能力でも発電量が大きくなる。加えて、陸上では再エネ設備の適地が少なくなっていることも洋上が注目されている理由の一つだ。
洋上風力では漁業への影響はあるものの、騒音などの環境問題、景観への影響は陸上よりも少ない。欠点は陸上風力設備よりも設備費と工事費が高くなることだが、最近の設備の大型化によりコストも下がってきた。
2010年には世界の風力設備導入量に占める洋上風力のシェアは2%、15年でも5%しかなかったが、21年には中国での導入の急増により22%まで増加した。22年の導入量は約900万kW。陸上風力と合わせた導入量7800万kWに対するシェアは11%だ。