まず資機材が高騰した。エネルギー省によると21年から22年の洋上風力用資材の値上がり率は11%から20%になる。今年になっても値上がりは続いている。
金利も上昇した。欧州の事業では借入金比率が80%、米国では55%とされている。着手から運開までの期間が長い事業では金利上昇の影響は大きい。事業者は当初見込んでいたコストでは事業を進められなくなった。
米国で相次ぐ事業の見直しと撤退
米国の大手エネルギー企業アバングリッドは、マサチューセッツ州の122万kWの洋上風力事業について同州の3電力会社との間で売電契約を昨年締結したが、今年7月に4800万ドル(約72億円)の違約金の支払いによる契約解除に合意した。
シェルの合弁事業も同州のプロジェクトに関する売電契約の解除を申し出ているが、了解をとることはできず、同様に違約金の支払いによる解除が予想されると報道されている。
風力発電事業では世界最大手のデンマーク・オーステッドは、米国で現在進められている洋上風力事業の半分に関与している。
ロードアイランド州で進める88万kWのプロジェクトについてはロードアイランド州の電力会社から、価格が高いとして売電契約の締結を拒否された。
ニュージャージー州の事業についてコストアップにより事業継続が困難と訴えたところ、州政府が受け取る予定の税額控除による還付金をオーステッドが受け取る措置が講じられた。しかし、11月1日にオーステッドは、同州の225万kWの事業について中断を発表した。最大56億ドルの減損が生じるため、株価は大きく下落した。
オーステッドはニューヨーク州で進める92万kWの事業については、同州で事業を進める英エネルギー大手BPの合弁事業と歩調を合わせ売電価格の引き上げを要求した。
BPはノルウェーのエクイノールと共同で進める同州の3事業(合計330万kW)について、契約期間の延長と合わせ3事業の売電価格、1kW時当たり11.838セント、10.75セント、11.8セントを、それぞれ15.964セント、17.784セント、19.082セントへの引き上げを要請した。
州政府公共事業委員会は要請を拒否したが、同委員会によると見直しによる消費者の負担増は267億ドル。家庭用電気料金の2.3%から6.7%引き上げに相当する影響がある。
8月に米国では新たにメキシコ湾岸の3地区の入札が行われたが、落札されたのは124万kWの1地区のみ。それも最低入札価格での落札だった。2地区には入札がなかった。
事業者が悲鳴を上げているのは米国だけではない。
そして入札者はいなくなった
スウェーデンの大手エネルギー企業バッテンフォールは、英国沖で進める140万kWのノーフォーク・ボレアス洋上風力の差額保障契約(CFD)を昨年英国政府と締結した。売電価格は2012年価格で1000kW時当たり37.35ポンド、現在の価格に換算すると約45ポンド(1kW時当たり8.2円)だった。
今年7月にバッテンフォールは事業の中断を発表した。昨年からのコスト上昇は40%になるが、CFDでは契約価格の見直しは認められないため、中断に至ったとされる。バッテンフォールはあらゆる選択肢を検討すると発表したが、事業を売却すると噂されている。