2024年12月22日(日)

World Energy Watch

2023年8月24日

 自民党の再生可能エネルギー普及拡大議員連盟(以下、再エネ議連)の事務局長を務めていた秋本真利議員が東京地検特捜部による強制捜査を受けた。容疑は贈収賄で、有力な風力発電ベンチャーとされる日本風力開発が計6000万円を秋本議員に支払ったとするもので、日本風力開発は容疑を認める姿勢に転じたようである。

(Andrey Semenov/dadao/gettyimages)

 具体的な容疑事実は、日本風力開発が洋上風力の国家プロジェクトの公募制度を自社に有利なものに改変することを画策し、その意図を受けた秋本議員が国会質問を通じて所管官庁である経済産業省へと働きかけたというものである。

 容疑が事実であるならば、再エネ議連の国策と世論の追い風を受けた「絶対的正義」という過信が招いたものかもしれない。その過信を醸成したのは、再エネと言えば無批判で支持する世論であり、再エネを持て囃してその欠点をきちんと報道してこなかったマスメディアだったのではないだろうか。

汚職事件の構図

 発端は2021年12月に国家プロジェクトの第1ラウンドに当たる秋田県および千葉県の3海域の入札が行われ、三菱商事を中心とするコンソーシアムが全てのプロジェクトを落札したことであった。三菱商事コンソーシアムが落札に成功した最大の要因が入札上限価格の半値以下という圧倒的に低い入札価格であった。

 そもそも資源エネルギー庁が設定した入札上限価格は欧州や中国の水準と比べるとかなり高く、それでいて洋上風力がグリーン成長の切り札のように喧伝されることには現実性がないと筆者は当時から批判していたが、三菱商事コンソーシアムの入札価格は世界水準には及ばないものの、世界との差をぐっと縮めるもので今後の希望を抱かせるものであった。しかしすぐさま風力発電業界の猛烈な巻き返しが始まる。

 まず入札結果の公表後1カ月も経たないうちに、三菱商事コンソーシアムの落札価格は「リスクを低く想定」し、「楽観的な事業見通し」による赤字受注に違いないと断定し、価格破壊が事業の実施可能性、産業育成、立地地域の合意形成の面で問題が生じうるとして、第2ラウンド以降の入札基準の見直しや審査評価の透明化、更には三菱商事コンソーシアムによる第1ラウンド落札の結果さえも政府は見直すべきとする論稿が発表された。その論稿は、三菱商事コンソーシアム以外の業者を「地元密着と評判の事業者」とし、「その価格は適正に高い」とまで言う、露骨なポジションペーパーであったが、その後の制度見直しに大きな影響を与えたものと思われる。

 そして翌22年2月の衆院予算委員会で秋本議員が洋上風力の国家プロジェクトの公募に関する制度見直しを「第2ラウンドから評価の仕方を見直して頂きたい」と当時の萩生田光一経済産業相への質問という形で繰り返し迫った。当然ながら舞台裏でも所管の資源エネルギー庁は強力な働きかけを受けていたと考えられ、国会質問から1カ月後の3月には既に公示済であった第2ラウンドの入札締切の同年6月を異例にも1年近く延期し、実際にその後6月23日には制度変更が行われた。

 制度変更の内容は、①最高評価点価格という基準以下の価格を入札した企業は価格要素については満点を獲得、②発電開始時期の早期化を配点化、③同時に複数海域で公募が行われた場合に落札制限を課す、といったところが重要な点であると考える。しかしいずれも21年末の三菱商事コンソーシアムによる総取りを受け、先行企業である風力発電ベンチャー各社に取り分を確保してガチンコ競争を回避させるような内容である。以下、論評してみよう。

 ①については、この最高評価点価格というのは別途定められる入札上限価格とは異なり、ある程度競争的な水準が設定される見通しではある。しかし今回、再エネ議連が政治的圧力をかけて最高評価点価格を割高な水準へと引き上げようとする悪しき企みが起こり得ると証明されたことを考えると、各社の価格差に応じて加点していく従来の公明正大な制度の方が望ましいだろう。

 ②については、元々カーボンニュートラルは50年に向けた目標であり、洋上風力を数年早く稼働させることに(仮に現在が40年代後半などであればともかく)ほとんど意味がない。そのくせ第2ラウンドの入札を1年近く遅らせたていることと全く整合性が取れない。

 ③については、洋上風力をグリーン成長に寄与するものと持ち上げているのに反し、企業の集中による規模の経済性の実現を妨げようとする内容であり、この点でも再エネ推進が経済成長にもつながるという口上がそもそも真面目に追及されていないのではないかと疑問視せざるを得ない。


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