2024年12月9日(月)

World Energy Watch

2022年11月16日

 岸田文雄首相は10月3日に行った所信表明演説で「急激な値上がりのリスクがある電気料金」について「家計・企業の電力料金負担の増加を直接的に緩和する、前例のない、思い切った対策を講じる」と表明した。ここまで大見得を切るくらいなので一体どのような対策なんだろうと思っていると、同月28日に公表された総合経済対策の中でその具体的内容が明らかとなった。

 ふたを開けてみると特段の新味はなく、来年1~9月の期間、消費電力1キロワット時(kWh) 当たり7円(9月は3.5円)の価格補助を行い、平均的な世帯は年間4万5000円の支援を受けるという内容のようだ。何のことはない、今年1月から実施されているガソリンや軽油などの燃油補助金と同様のスキームで、電気小売業者に電気料金を引き下げるための補助金を交付するというものである。

(vchal/gettyimages)

 しかしこうした価格補助は愚策というほかない。無分別なバラマキだからというだけではない。市場の資源配分の最適化機能を損ない、日本社会にとって正しい水準を超えて過剰に電力を消費することになってしまうためである。

 その帰結はわが国の国富の海外への流出である。ましてや経済産業省は今冬12月から3月にかけて電力需給の逼迫を想定し、11月1日に節電要請を発している。電気料金の価格補助は値上げがもたらす節電の動きを打ち消し、電力需給の逼迫に拍車をかける結果を招くだろう。停電危機の回避よりも国民の一時的な歓心を得ようとポピュリズムを優先したと糾弾されても仕方ない。

需給のバランスを狂わす価格補助

 電気料金の値上がりは、ウクライナ戦争などの影響で化石燃料価格が高騰し、化石燃料を使用する火力発電のコスト急騰が原因である。化石燃料の希少性(入手の難しさ)が高まった現状を正しく反映したものである。

 発電コストの上昇は、従来の料金水準ではこれまでと同じ量の電力を供給できないことを示している。他方、需要面を見れば、電気料金が値上がりすれば電気利用者は光熱費をこれまでの支出額の範囲に収めようと電気の使用を節約する。

 こうして発電/消費電力の量が正しい水準、すなわち以前よりも減少するよう調整される。これが価格の変化がもたらす市場の資源配分の最適化機能であり、崩れた需給バランス(この場合は供給力に比して過大な需要)を価格の変化によって電力事業者および電力消費者の行動を変え、再びバランスさせるのである。

 価格補助はこの価格の需給バランス回復効果を阻害する。化石燃料の希少性が大幅に高まった現実が厳然と存在するのに従来と変わらず電力を消費すると、当然ツケが回ってくる。


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