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World Energy Watch

2022年11月16日

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堀井伸浩 (ほりい・のぶひろ)

九州大学経済学研究院准教授

慶應義塾大学大学院修士課程修了後、アジア経済研究所に入所。中国清華大学技術・経済エネルギーシステム分析研究院客員研究員、日本貿易振興機構アジア経済研究所副主任研究員などを経て現職。専門は産業経済論(中国のエネルギー・環境問題)。

 政府がやろうとしている電気料金の価格補助は電力の過剰消費を助長し、停電の危機を招き寄せる恐れがある。そして仮に停電が実際に起こってしまった場合、電力を切実に必要としている家庭や企業も強制的に電力消費を断念しなければならなくなる。

 東日本大震災の際、関東地方では地域を指定して一律に輪番停電を実施したことを思い出して欲しい。大災害であったのでやむを得ない面はあるが、あの局面でも有無を言わせない停電の強制ではなく、価格を大幅に引き上げてそのアナウンスを周知徹底して、消費者の行動変容を促した方が望ましかったと考える。当時、病院など電力の必要度が極めて高い消費者が停電対応のため右往左往していた様子は価格の資源配分の最適化機能の重要性を改めて物語るものだった。

 富める者は好きなだけ電気を使い続けるのに、貧しい者は寒さに震えるということにやるせなさを覚えるのは筆者も同感だが、電力の必要度は当事者以外は判断できないし、そもそも他の人たちと比較可能なものでないので、結局一律に価格補助を適用しようということになってしまう。その帰結が電力の過剰消費を止めることができず停電の発生ということになれば、富める者も貧しい者もみな平等に電力を使えないということになる。溜飲が下がるかもしれないが、切実に電気の使用が必要な消費者の電力消費を妨げる、誰も幸せにならない悪平等でしかない。

目先の人気取りが停電の引き金を引く可能性も

 それにしても電気料金の価格補助と節電要請という全く相矛盾する政策をほぼ同時期に公表するというのはあまりにチグハグで、政府の経済政策の形成機能に問題が生じていると疑念を抱かせる。恐らく支持率低下に直面すると安易なバラマキで回復を図ることが習い性となっている現政権の押し込みによるものという大方の見方が正しいのだろうと思われる。

 しかしバラマキをすれば国民の歓心を買えるという考えも随分日本国民を馬鹿にした話であるし、そうして支持率が高まったとしても所詮一時的なものに過ぎないだろう。価格補助で電力の過剰消費が解消されない状況において、今年3月に生じたような気象条件の変化などで電力需要が急増した場合、停電の危機が高まる恐れがある。

 すなわち、価格補助を続けていくことは目先の人気取りを優先して停電危機の引き金に手をかけている状況であると言え、電力の安定供給に腐心すべき政府としてあるまじき愚行である。

 
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